短編集

□風見祐也と
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次の日、整理した頭で登庁したけれどやっぱり風見を見るとドキッとしてしまい、見つからないように隠れたり、書類関係は降谷に任せてしまったり……。
避けてしまって彼も気づいているだろうに何も言わなかった。
降谷は苦笑していたけれど。

何も言ってこない風見に安心しつつ、しかし何も言ってくれない彼にちょっと面白くない。


「どっちなんだよ…」
「めんどくさい女だって思ったでしょ…。だって…!意識させておいて知らんぷりするなんて酷いじゃん……」
「風見は待ってるだけだろ」
「うーん……」


いつものように風見が帰った後、2人でコーヒーを飲みながらいつもの話をした。
もはや作戦会議のようなものだ。


「……俺だったらさ湯木」
「うん?」
「俺だったら、こんな風に夜遅くまで上司と言えど別の男と一緒にいる所を見たら嫌だけど」
「あー、そうね、降谷は独占欲強そう」
「男はみんなそうだろ、嫌だけど口に出さないだけだしな」
「……どうしよ」
「お前は風見にどう思われたいの?」


そう降谷に聞かれて質問の意図に首を捻る。
『思われたい』?
風見は部下だ。直属ではないけれど。

ギスギスはしたくない。働きづらくなるから。
話せないのも嫌だけど、濃密な関係になりたいわけでもない。
いくら考えてもやっぱりそれしか出てこないのだ。


「風見とは…、これまで通りでいたい…」
「じゃ、それを言えばいいだろ」
「でもぉ…、それで話せなくなるの、やだ」
「可愛くねぇぞ」
「ひど……」


風見は可愛い。
従順で扱いやすくて…。気遣いができる信用の置ける部下だ。
離したくない。
でもそれ以上になることを考えたこともなかった。


「明日、言えよ」
「なんてよ」
「『ごめんなさい』」
「無理ー!!!」

「─────失礼します」


同じことを同じように討論しているとそれは不意に空間に響いた。
ハッとしてふたりして出入り口を見るとそこには風見がいた。


「かざ…み」
「……じゃ、俺は帰るな。風見、こいつ車持ってないから送ってやってくれ」
「えっ、ま、降谷!」


風見の肩に手を置き何か耳元で囁くと降谷は手を振って出ていった。


「……」
「……」


えー!!!
なんか無理ー!!
何も話さない風見に俯いて視線をキョロキョロとさ迷わせていると彼が隣の席に座った。


「湯木さん。考えてくれましたか」
「あ、いやー…、ははは」
「俺ではダメですか」
「えっと、違くてね、そういうことじゃ…」
「降谷さんが好きなんですか?」
「はっ!?降谷は同期だよ?絶対ない」


言い切ると少し安心したように息を吐くと風見は恐る恐る私の手を取った。
その拙さにこっちが逆に怯えてしまう。


「湯木さん、好きです」
「あ、の…」
「何度だって言います。あなたを守りたい。こんな仕事している以上、いつどこで殉死するか分からない。俺はこの想いをあなたに伝えたかったんです。……嫌だったら断ってください」
「……」


何も言えずにしかし面と向かって言われた言葉に頬が赤くなって行くのを感じた。


「わ、私、めんどくさいよ?それに…、仕事が一番だし……」
「俺だって仕事が最優先です」
「それにそれに、デートとかもドタキャンするかもだし」
「都合付かない時なんていくらでもありますよ」
「でも……」
「俺はあなたが欲しい」


きゅん、と胸が鳴った。

ドキドキとなるそれは大きな音すぎて彼に伝わるのではないだろうか。
怖くて引き抜こうとした指を逆に強く捕まれ、その指先にキスを落とされた。
ビクッと身体が強ばる。
なんてキザな。


「好きです湯木さん」
「うん…」
「離したくない。降谷さんにだって渡したくない」
「わ、わかったから…っ」
「俺を好きになって下さい」
「…っ!」
「…………湯木さん」
「なによ」
「キス、していいですか?」
「!!!」


緩く首を横に振ったけれど彼はゆっくりと頬に手のひらを当て、彼の方向を向かせると顔を寄せてきた。
処女でもあるまいしいいかと瞳を瞑ると小さなリップ音。
しかしそれは唇ではなかった。


「な、んでおでこ…」
「あなたから好意を頂いていませんので。仮にも警察官が女性の唇を無理やり奪っては…」
「…ばか」
「はい」
「うー、ばか…っ」


自分から抱きつくと彼は優しく抱きしめ、頭を撫でた。
じわじわと暖かくなる胸をどう表現したらいいんだろう。


「私…、めんどくさいからね…!覚悟してよ」
「えぇ、そんなところも含めて好きです」
「返品不可だから……」
「誰にもあげませんよ」
「……」


瞳を細められ近付いてくる彼に私は今度こそ目を閉じて彼に縋った。
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