短編集
□沖矢昴の皮を被った赤井秀一と
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主語がなかった言葉だったが伝わったらしい。
グリーンの瞳が見開かれバツが悪そうにそっぽを向いた。
「悪かった……。次からは気を付ける」
「いえ、そういうことを、言いたいのでは…」
言葉が絡まって言いたい言葉が出てこない。
口をぱくぱくさせて、しかしやっぱり言いたい言葉は出てこなかった。
小さく俯いた私に赤井さんはフッと自傷気味に笑うと私に触れないように、隣をすり抜けた。
「……優稀?」
「えっ?……あ!?すっすみません!」
赤井さんの視線の先には私の指が。
何故か彼のシャツを掴んでしまっていた私はそれを慌てて離した。
「言いたい言葉が、見つからないんですけど……、でも………、私は赤井さんのことを知らないから、知りたいなとは思います」
「っ」
「ワガママ、ですよね…。すみません。私が……」
赤井さんの事も愛せれば良かったのに。
そう呟くと赤井さんはゆったりとした動作で私の頬を触った。
触られたという衝撃で身体を一瞬震わせると赤井さんは1回離し、またゆっくりと撫でた。
「俺も、同時に女を複数人愛することは不可能だ。お前は、間違ってない」
「赤井さん……」
「俺が、お前が好きで…離したくないだけなんだよ」
頬を撫でていた指は頭の上に乗せられた。
優しく撫でられ彼は私を愛しそうに見つめて微笑んだ。
「今は、それが聞けただけで十分だ。ありがとう、優稀。愛している」
「っ…!」
恥ずかしいことをさらっと言いのけた彼はそのまま部屋に戻っていった。
赤くなった顔を両手で押さえてクールダウンするべく冷蔵庫からミネラルウォーターを出した。
「愛している、か………、ん?」
余程焦っていたのかいつもは片付けるロックグラスがテーブルに置いてあった。
まだ半分残っている。
私はそれを震える手で持つとちょこんと口をつけた。
微量にも関わらず喉が焼ける感覚を感じながらロックグラスをシンクに置いた。
「あとは私の…、気持ちだけ……」
彼が飲んだ物を飲めるなら、生理的には大丈夫なのだ。あとは、この思いを……。
私は自分の部屋に向かうのではなく、沖矢さんの部屋に向かった。
全くのノープランだけど、でも、何とかなる気がした。