短編集

□男女の相違性と価値観について
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読書をしている秀一さんの隣に座り心臓をバクバクさせながら寄り添うと彼はピクリと動いてこちらを凝視する。


「……どうした」
「んー……」


硬い二の腕に頭を擦り付けて仰ぎみると開いていた小説をテーブルに置いて私を見つめた。


「何かあったのか」
「ちょっとだけ、聞きたいことが」
「ホォ」


足を組み直した彼は私の髪を指で梳くように弄びながらそう返事をする。
少しだけ怖い。今まで私から言うことなんてなかったしどう伝えたらいいんだろう……。


「言いづらいことなのか」
「まー、わりと」
「……今日中に言えよ」


彼は小説を持って席を立とうとするのでそれを捕まえて再度ソファーに座るように促す。
私に考える乃至は心の準備をする時間をくれようとしたのだろうがそれじゃダメだ。
今言わなきゃきっと明日もその次も絶対言えなくなる。
秀一さんから言える問題じゃないなら私から言わなきゃいけない。


「あの、だから……」


口をごにょごにょと濁ませるが聞こえなかったらまた言うことになるなら一回で済ませたい。
結構恥ずかしいんだから。


「えっち……しないの、なんで……」
「……………………は」


石像に色を塗ったのではと思うほどに停止した秀一さんに、顔に熱が集まって恥ずかしくてつい思っていたことが口からこぼれ出た。


「そりゃあ!私秀一さんから見れば子供だし高校生だし年だって結構離れてるけど!私は秀一さん好きだしえっ、……ちしたいよ!秀一さんは私の身体が……JKの身体が目当ての人じゃないでしょ!?なのにキスだって数えるぐらいしかしてくれないし!」
「……優稀」
「私の就職先お嫁さんって書きたいんだよ!書かないけど!大学行くけど!私は、私は!それぐらいの気持ちで秀一さんと付き合ってるの、秀一さんはどうなんですか!」


最後は変に敬語になってしまって伝えたいこともぐちゃぐちゃになってしまった気がするけれどとりあえず雰囲気が通じればもういいかな、伝えただけで完全燃焼した気がする。
ああ〜〜と秀一さんがいない方向に横に伏せるとぅぅぅと唸るように奇声を上げた。
自分が逃げられないようにと彼の滞在するホテルにお泊まりに行く日に言おうと思ったので私にもう逃げ道はない。歩いて帰れるような時間帯でもない。
これでお前とそんな関係じゃないとか処女は嫌いとか言われたらどうしよう……そうだ、安室さんに慰めてもらおう。上手そうだし、まあ……処女なんだけどね。


「……前に」


微動だにしなかった秀一さんはそう切り出した。
ふわりと煙草の香りがしてライターで火をつける音がする。
言葉を切り出したまま煙草を吸っているのか中々次の言葉を言わない彼にそろりと視線を上げると秀一さんはこちらを向いていなかった。それでも誰が見ても愛に溢れていて。


「前にボウヤに聞いた。お前は性的なことが苦手で潔癖症らしいと」
「ボウヤってコナン君?なんでそんなこと知ってんのあの子」
「そこはいいだろう」
「よくないよ」
「それで……」
「……」
「それで、最初にお前が拒んだだろう」
「え、いつ」
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