第夢人格

□かみさまはいたらしい。
1ページ/2ページ




最初は水をかけられる。バケツ一杯に入った冷水を頭から。殴られた青アザや縛られた痕がある肌を水が流していく。
ぶるり、と寒さで体を縮こませるが、僕の体を清めようとしているらしい男たちは遠慮もなく冷たいタイルに押し付ける。
トゲがついているのではないかと思うほどの劈く痛みを与える体を擦るそれが傷だらけのしかし貧弱なほど白い肌を何往復もする。
『痛い、やめて』なんて言ってしまった日には使用人たちの形相が変わり腹を蹴られた。
吐き気を伴う痛みに蹲るが強制的に手足を引っ張られ仰向けに固定される。
複数人の彼らは僕を押さえ込んで排泄する場所に無理やりに棒を突っ込んだ。濡れた棒とはいえ水だから圧迫感と局部をこじ開けられた苦痛で顔が歪む。涙を堪えたくても出来なくて歯を食いしばって嗚咽だけは出さないようにした。
悪魔のような時間が終わると裸のまま豪華な寝台に放り出される。
そこには魔王がいる。ギラギラとした装飾品を着けた太った大富豪がこちらをニタニタした表情で見るのだ。


アンドルーは惨めなほどのボロボロの服とは呼べない布を纏っていた。
アンドルーが魔王の城と勝手に呼んでいた大富豪の屋敷から捨てられて向かう先も分からぬまま歩いていた。水もなく食料もないアンドルーは力尽き人通りのない奥地に座った。
安らかな誰にでも平等である死を望むアンドルーに神の声は聞こえなかった。
寒さに震えたアンドルーは迫り来る『影』を見上げる動作も出来ずにいた。
アンドルーは奴隷だったが、大富豪の元にいたのでその影が履いている革靴が大層な品であるのが分かって絶望する。
『…………奴隷か』
アンドルーは答えなかった。
やはり男だったその影は清潔と呼ぶには些か度が過ぎている身なりのアンドルーの元へ膝をつく。
『……行く場所はもうないのだろう。ついておいで』
アンドルーは首を振った……と思う。首元から入る冷気に体を縮こませる。白い息を吐いて真っ赤になった指先を温めようとするが動かない。
ふと、肩に圧を感じた。それは上着のようだった。男の、ジャケットのようだった。
『いいから』
アンドルーは大富豪に娼婦として飼われていたが背は平均な人並みだった。腹が減っていたがそれなりに体重がある。
しかし男は動こうとしないアンドルーを軽々しく抱き上げた。軽い、と感嘆したような声が身近でした。抵抗よりもそれよりもアンドルーは久しぶりの肌の温度に安らぎを覚えてしまい彼に引っ付いた。
歩いていた。男がどこに向かうのかは分からない。アンドルーは『男』という時点で既に察していたし、自分が希少な身であるのも知っていたから抵抗はしなかった。
アンドルーはつかの間の幸せを味わうように男の首元に擦り寄った。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ