魔女シリーズ

□魔法使いの日常
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「場所を移す」
「…………ふぁ?」


ソファーにうつ伏せで横たわりスマホをいじっているとジンがそう言った。
彼を見たものの独り言かと思って顔を背けようと考えるがジンはこちらを見たままだった。
素っ頓狂な声が口から出ると暫しの間見つめ合う。


「な、何を仰ってるの……?」
「引っ越す」
「言葉が足りないって言ってんですわジンさんや」
「……はあ」


はあじゃないね??
ため息つきたいのはこっちなんだよ?
ホウレンソウをご存知ない???
引っ越すのは別にいいとしてどうしてそうなったのか経緯を聞きたいんだが。

ジンは話す素振りも見せないし仕方なく脳内を覗かせてもらう。
本当はジンとかウォッカとか友達や家族には使いたくないんだからね!
あなたの口はなんのためについてるの!ってウォッカ(ママン)に教わらなかったの!?


「────ふぁー……凄いねジン……」
「ふん」


要約するとジンが真っ当に務めていた会社の業績が落ち込んでいて、それを見かねたというか潰れたらだるいぐらいの気持ちで草案を出したり立案したりしていたらあっという間に業績が右肩上がりになったと。
そしてどうしてか社長が呆気なくジンに社長の座を何故か譲り社長は名誉会長になって実質ジンが会社のトップになったので稼げるように。
それでいいとこの家を建てるなり買うなり出来るのでどうかと私に尋ねたというのだ。
いや、察せる内容じゃないよジンパイセン!
思いつき程度でそんなこと分かるわけないよね?気付こうね、私はただの一般魔法使いです(一般とは)。


「ウォッカに秘書やらせてる」
「そっか〜、最近いないなって思ってた」
「……それで勝手に引越してもお前が魔法やらなんやらでどうにかしてんだろうからお前の同意がねぇと出来ねぇだろ」
「りょーかい!どの辺にする?家の入口は同じところに繋ぐだけだから家具を動かすだけだよ」
「建ててもいいが……」
「んー、戸籍がねぇ……、公安やFBIもいるし」
「ならもう決めた」
「おっけい案内して」



***



案内された家はジンの会社の近くで戸建てだった。
中々広いし綺麗で見晴らしもいい。
すぐ契約出来るといって、恐らく不動産の人が書類を持ってきていた。
ジンは分厚いそれをペラペラと本当に読んでんのか分からんぐらいの速さで捲ると何ヶ所か名前を書いて拇印を押す。
顔を変えた時に指紋も変えておいてよかった。じゃなきゃ今頃すでに追われる身に……。
普通ならこういう書類はシャチハタじゃなければいい的な判子、出来れば実印とかなんだけどこの世界では拇印が一般的なそうな。
指紋が確認できなければ犯罪者、できれば一般人、前科持ちも分かるシステムらしい。
私には効力ないけど。


「引越し等々は全てこちらでする。干渉するな」
「畏まりました」


これで終わりとばかりに不動産の人を掌で払いそれを見たその人は頭を下げ去っていった。
よーし、じゃあやるかー!

ちゃんとした魔法がない代わりに制限がないのが私の魔法の利点で住んでいた家の家具をそのままミニチュアサイズにして空間を繋げ、全てを浮かして新居に設置する。
ふわふわゆるゆると浮きながら私が考えた配置に着くと原寸大の大きさに戻る仕組みである。
資料を片手に座りたそうな彼を見かね先にジンが気に入っているソファーをリビングに原寸大に戻し配置する。
それに彼が座るのを確認してからソファーごと浮かして下にカーペットを引く。
ここだけ見るとジンが魔法使いみたい。髪も長いし魔女っぽくない?ちょっとかわいい。


「見てねぇで仕事しろ」
「わかってますぅ」


自分は棚上げかよとジンをジト目で見る。
彼は会社の書類と思しき書類を読んだりサインしたりしていて『こっちで全てやる』と言った割には何もしてくれない。
バインダーだけだと大変かなとテーブルも一足先に搬入しているが戻そうかな。


「あとでなんでも買ってやるから」
「……ん?今なんでもって言ったよね?」


返事はない。
しかし冗談は言うにしろ私に嘘を付いたことがないしとりあえず信じることにしてテーブルを用意すると分かっていたように筆を走らせているので放っておく。




*****




「引越し作業がこんな簡単だったら業者になりたい」
「力を隠している時点で無理だな。開業するにせよ……、無理だな」
「ですよね〜」


新しい家にウキウキがとまらない!
私はどこまででも瞬間移動出来るから日本以外でも大丈夫だけど二人は会社近い方がいいもんね。


「それでお前を社員に迎える」
「……ん?引越し業の?」
「………………」
「え?ジンの会社の?」
「妻として迎え入れたいがなんせお前が…………。秘書補佐さえも与えられない」
「酷すぎワロタ」
「頭の悪さはその魔法で補って平社員として働け」


この感じだと決定事項そう……。
ジンっていつも先のこと考えてるよなぁ。素直に凄い。


「いいけど本当に私でも働けるの?」
「あぁ、主に雑用として雇う」
「おっけー社長」


その後めちゃくちゃに高いビルを仰ぎみながら「まじかよ」と零し、社員たちの心の声で酔って入社一日目にて辞めたくなるとは露ほども思っていなかった私だった。

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