短編集
□沖矢昴と
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赤井秀一もとい沖矢昴にはある悩みがあった。
それは『沖矢昴である時』に恋人になった優稀のことである。
元々好青年的に恋人のひとりやふたりがいないのはおかしいだろうとボウヤと話し合った結果、恋人らしき人を作ればいいのではないかという結論になり、利用するのに作った女だった。
「沖矢さん!こんにちは」
「あぁ、優稀さん。こんにちは」
しかし次第に彼女なら打ち明けてもいいのではないかと思い始め、それをしたのがつい先月だ。
目を見開いた彼女は悲しそうに顔を歪めて大粒の涙を流し始めた。
驚いたのは俺だった。
宥めて帰らないように拘束して諭した。
何度も謝ったと思う。
それでも彼女は頭を振って『沖矢さんが好きなの!あなたじゃない』とはっきり言ったのだ。
それ以来赤井秀一について全てを話し、理解はしてもらい、沖矢昴の恋人としてこれからも居てくれないかと告げた。
赤井秀一含めて君に好意を持っているのだと言って彼女からの別れの言葉を遮って。
それから彼女はやっと俺に気を許し始めたのか段々と普通に接するようになり、今日がそのデートの日だった。
出掛けたいだろうにお隣さんを守るんでしょう?と許しの言葉を吐いた彼女には頭が上がらない。
なので今日は俗に言うお家デートだった。
「沖矢さんに勧められたこの本面白かったです。ありがとうございました」
「いえ、良さを知ってもらえて何よりです」
元々捨てる女だったために身体の関係はなく、今後も彼女は望まないだろうが、俺は本気で彼女を愛しく思っていた。