短編集

□降谷零と
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「降谷さん、ただいま戻りました」
「あぁ、ご苦労だったな」
「えぇえぇ、労わって頂けるんですよね?全国指名手配犯を追って外国一回りして謎の宗教や組織を潰して帰ってきた早々にある人物を探れ、だなんて。有給取って温泉にでも行こうとしたのに」
「仕方ないだろ、暇な部下はお前しかいなかったんだから」


カツカツと自分のデスクに座るとジト目で降谷さんを見る。
彼はおくびにも出さない顔で労りの言葉を吐いた。
今更かとため息を一つ付いて椅子の背もたれに体重を預けると一時ながら身体を休めた。


「それで?」


彼は降谷零。29歳。私より2個も下なのに私よりも上官である。
私は所謂キャリア組でするりと、まぁ、色々大変なことはあったが上まで登り詰め、偉業とも言える若さでそれより年上の人々を従えながら仕事をしてきた。
その中にはもちろん移動したばかりの降谷の姿もあった。
しかし今では天地逆転。
彼が私の上官になった。
それまでの道のりは省くが、一言でいえばそうだな、彼はまるで『天皇陛下万歳』時代の軍人のようだった。
一気に私のところまで登り詰め今や上司だ。
感慨深いね、全く。

「あなたが調べてほしいって言った男、なんの情報も出ませんでした…、普通に学生なんじゃないの?」
「そんなはずはない。絶対に怪しい」
「証拠は」
「俺の勘」
「あー!もー!ほんと、降谷さんそういうとこありますよね!分かったわ、接触してあげるから」
「お前温泉はいいのか?」
「いつか付き合ってくれるんでしょ?『零くん』?」
「……その時はお供しますよ『優稀先輩』」


恋人同士と言うなら苦い。でも友達と言うには甘い。上司と部下ならちょうど良い温度。
私達はこの距離に甘えていた。
彼が上司になってからは私は敬語を使い、彼は遠慮がなくなったけれど、たまにこうして言葉遊びするのは2人にとっての安らぎの時間だった。



「じゃあ明日接触してみますね。あなたが言う人物なら有り得ないですけどよく近所に買い物に出掛けているみたいなので」
「一般人を装えよ」
「分かってますよ、演じるのは、あなたより得意です」
「知ってる」
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