短編集

□降谷は愛されたい
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風見っていい男だよね。
そんな言葉をデスクに肘を立て顎を乗せて思うとバッと周りの人がこちらを見たのでもしやと口を両手で押さえる。
風見は油の指してないブリキ人形のようにぎぎぎと音を立てるような仕草で私を見て分厚い資料を片手にズカズカとこちらに歩み寄ってきた。


「その言葉を撤回してください。あなたの恋人の方が何倍も何億倍もかっこいいですよ、そうですよね?そうだ、そうでしょう?」
「えっ、あ、う、うん……零の方がかっこいい、よ……」
「以上です」
「あ、はい」


頷くと周りはすぐさま安堵したように仕事に戻った。
はあ、とため息をついて私も仕事をし始める。
腫れ物扱いは嫌いだ。それもこれも零のせい。


零が例の犯罪集団、通称黒ずくめの組織に潜入して約五年。最近やっとこちらとコンタクトを取れるぐらい信用が取れたらしい彼はそれでも警察庁に赴くのは厳しいと公安課から一人情報を伝達する人間を決めた。それが風見だ。
私と零は同期であるが、零の出世が早いだけで私は風見の後に入ってきた。それなりに使えると判断されたが女という性であるため上には行けず風見と同じポストに落ち着き、しかし私は風見に敬語だった。先輩だし。だから風見が選ばれたことに不満はないし、何にも思ってはいない。
それでも風見がやむを得ない事情で零と密会できない時は私が出ることになった。
友達、という体で話していたのだが、知り合いの娘さんにその場面が見つかり、私の容姿はカモフラージュの同業者のようでも悪人にも見えなくて考えた結果『依頼人』であると説明をすると胡乱な瞳で見つめられ思わずギクリと強ばると零が前に出てこう言った。
『恋人なんです。秘密ですよ?探偵は敵も多いので……。彼女は蘭さんのように悪い人立ち向かえる術も心もないんです』
ちゃっかり貶されたわ、はは。なんて思っていると興奮気味な蘭と呼ばれた少女は出会いや告白の言葉などを聞いてきたがこの年でそれはないだろうというような仕草(ウインクしながら唇に人差し指を立てる)をしてその場を収めた。その仕草にうわあと思ったのは秘密だ。
それから風見ではなく私の方が融通が聞くと交代になり嫌々ながら恋人のフリをしていると突然キスをされ何事かと驚くと追っ手だと言われそれを受け入れた。
怖いな、あの子は。なんて呟く零に眉間に皺を寄せながら彼から逃れ帰ろうとするとその言葉は降りた。
『本当の恋人にならないか?』
え?
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