短編集

□妻は破天荒
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裕也さん、私頑張るから。
そう妻、優稀は言い残し家を出ていった。




「本当にすまない、破天荒な娘ではあったがあれほどとは」
「いっいえ!次長が気負いされることではありません!暗に私が不甲斐ないばかりでありまして、優稀さんが自分なりに行動された結果かと思われます……!」
「気遣いは無用だ風見君。はー……、本当にすまない」


頭を下げる勢いで謝る次長に風見は首を振るがそれでも次長の心は晴れなかったようで椅子の背もたれに自重をかけながら天を仰いだ。


「分かっている……、私も風見君も悪くは無い。いや総合的には悪いのかもしれないが行動力がありすぎる娘がやはり事実上悪い」
「い、いえ……」
「あぁ、もう気遣いはやめたまえ。仕方ない。娘も娘で考えた結果なのだろう。…………待てそれでは危機管理能力が足りないな。安直に考えた結果だな、そうに違いない」
「おっ仰る通りかと……!」
「全く……」


次長の娘を風見はもらい受けた。
別嬪であったし仕事に理解があるし……、といっても結局断れなかった結果だったが、風見はそれでも美しい十歳下の嫁が貰えたのは幸いであったし愛す努力をしていた。
一方優稀はまだ若さゆえか少し無鉄砲な所があり、街中で見掛けると走って抱きついてくることや裸エプロンをして風見を迎えることも少なくなく身に余る……文字通りだが、妻への対応が対策出来ていない。
そんな妻は次長の美しすぎる娘とメディアに露出し、お義母さんの仕事である旅館を手伝い若女将として活躍し、エリートである風見に嫁ぎ、まさにトリプルフェイスとして生活している。
そんな彼女は危険が付き物で、警察を妬む刺客や、若女将の座を狙う仲居や風見に個人的に恨む犯罪者などから格好の的であった。
風見はいつも気にかけていたし、残業もあまりしないようにしていたし、次長の手の者によって陰ながら守られていた。
しかしそれは外部からの接触であることが条件で、妻がコンビニに行ってくる並の軽さで直接刺客に逢いに行くなどの場合は飛んで火に入るなんとやら……、目も当てられない。

今回妻当ての手紙で殺人を仄めかし、警察内の情報を売るなら生かしておいてやるという幼稚なしかし立派な犯罪のそれを妻は何を思ったかキラキラした瞳で風見を見たのだった。
この瞳はだめだ、聞いてはいけないと言葉を遮る前に妻は口を開いた。
『役に立ってみせるわ!裕也さん、私頑張るから』
頑張るのは我々警察であって、あの、優稀さん、聞いてます?優稀!?荷物をまとめ……え?嘘ですよね、待ってください、ちょ、嘘だろ!?じ、次長!次長に電話……!
と冒頭に戻るのである。




「既に降谷を潜入させた」
「あ、ありがとうございます!」
「忙しい降谷をいれたので書類仕事は君がやりたまえ」
「もちろんです!すぐに終わらせてみせます」
「それで心配はしていないが……、帰ってきたら実家に顔を出すように言ってくれないか?あの子は君にべったりでね、電話でさえも一分も話してくれない」
「承りました」
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