短編小説U

□私の役目
1ページ/1ページ




「ごめん理佐ちゃん…付き合わせちゃって…」
「いいよ、全然。梨加ちゃん最近頑張りすぎたんだよ。」
「んぅ…そうかな?」
「そうだよ。あ、タオル取り替えよっか。」
「ありがと…」


寮の部屋。
ほんとうだったらまだ仕事にいたはずだったんだけど私はみんなより少し早く帰ってきてしまった。
その理由は、風邪。
最近なんだか熱っぽいような気はしてたけど、まさかほんとに熱があるなんて。仕事中、いつもより体が重くてぼーっとしてたらみんなが「どうしたの?大丈夫?」って心配しにきてくれた。最初はよくなんのことだか分かんなかったけどしきりに私のおでこに手やらおでこやらをつけてきて「あっつい」って言うから自分でも手をそっとあててみると確かに温かかった。
そう思った瞬間、目の前が歪んできて…


目を開けたら、理佐ちゃんと車の中だった。
理佐ちゃんは今日仕事なかったんだけど私のために来てくれたらしい。そのまま私の部屋で看病してくれている。
優しいな。


でもふと、あの人の顔が浮かんできた。



あっ、そういえば…





「…今、愛佳のこと考えてたでしょ?」
「ふぇ?」
「ふふ、図星って感じだね。」
「なん、で…?」
「一瞬ね、愛佳って感じが出てたから。」
「そんなの出るの?」
「出てたんだよ。」
「ふふふっ。おかしい…」
「そう?」
「うん。理佐ちゃんおもしろい…」




そうだ、愛佳だ。
理佐ちゃんにはなんだか申し訳ないかもしれない。でも、愛佳に会いたいなって思ってしまった。
もし愛佳と仕事が一緒だったら、愛佳はいつもより優しくしてくれたのかな?
もし一緒だったら、私の目の前にいるのは理佐ちゃんじゃなくて愛佳だったのかな?
あ、もしかしたら怒られるかもしれない。「なんで言わなかったの。」って。


熱があるからかな。なんだかいつもより愛佳のことを考えてしまう。
理佐ちゃんがそんな私に気付いてか、「風邪のときはあんまり頭使わない方がいいよ」って言ってくれた。



うん。そうかもしれない。


考えるのをやめようとしたとき



「あ、愛佳から電話きた。」
「え?」
「はいもしもし…あーうるさいな…え?なに?…出してないから…あ、もしかしたら今襲っちゃうかもね。」
「?」
「嘘だって。梨加ちゃんはベッドで寝てる。…はいよ。じゃあまた明日。」
「愛佳がどうかしたの?」
「いや、なんでもないけど…梨加ちゃんに会いにくるんだって。」
「え?帰ってくるんじゃなくて?」
「あはは、そこは愛佳の気持ちじゃない?」
「そうなの?」
「うん。」
「…あれ?帰るの?」
「だって、愛佳に蹴られるからね。」



そう言って理佐ちゃんはもう一度タオルを絞って立ち上がり、愛佳も大変だな〜みたいなことを言い残して私の部屋を出ていった。



一人になってちょっと寂しくなったけど、その寂しさも駆け込んできたその人によってすぐ消え去った。





「べり!」
「まなか靴脱いで…」
「あ、ごめん!で、大丈夫なの!?」
「たぶん?」
「このバカ。なんで言わないんだよ…」



あ、私が思ってたこと言った。



「私がべりと仕事一緒だったら最初っから看病できたのに…」



あ、また。



「べりだめだよ?あんま無理しちゃ。うちが悲しくなるんだから…」



そう言って愛佳は優しく私の頭を撫でてくれた。

愛佳と私って、もしかして心繋がってるのかも?



「べり?」
「…まなかのこと、すごい好きかも…」
「え、え?」
「ふふ、まなか好き」
「熱にやられたの?大丈夫?」
「愛佳は好きじゃないの?私のこと…」
「好きに決まってんじゃん!いや、てか、なんていうかさ…いきなりは心臓に悪い…」
「そうなの?」
「そうなの。はい。病人は早く寝る!」
「理佐ちゃんもあんまり考えるのはよくないって言ってた…」
「あ、あの理佐のやつ…変なことされなかった?」
「しないよ。理佐ちゃんは。」
「“は”ってなんだよ…はって…」
「でも愛佳はいてくれる?今日一緒に。」
「あったりまえです。…おやすみべり。」
「風邪移っちゃう…」
「考えんなー感じろー」
「意味わかんない…」
「ほら、早く寝るぞ。」
「うん。…おやすみ、まなか。」



おでこにキスをして、愛佳と一緒に抱き合って布団にくるまった。























END.

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ