短編小説U

□輝く笑顔に
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「…梨加ちゃんがいない…」



東京の真ん中。たくさんの人が溢れるなか一人、誰にも聴こえないことを呟く。



これは、まずいんじゃないかな…




つい先日のこと。楽屋のなかで私は化粧水がもうすぐ切れそうなことに気付き鏡の前でどうしようかと悩んでいたら梨加ちゃんがやってきた。
どこかいつもよりキラキラしてるその目の正体は、「買いにいく?」ということで、つまり、一緒に買い物に行きたいというものだった。
そういえばもう少しで休みがあるからいいよと言って承諾したわけだけだけど…



適当な場所で待ち合わせをしてのっそり歩いていたらいつの間にか隣にいた彼女はいなくなっていた。



とりあえず人が少ないところに、って言ってもそんなところまず見つからないけどしいていうならここかなってところに行く。
周りを見渡してみるけど、梨加ちゃんらしき人は見つからない。あーもう。こんなことになるなら恥ずかしがらずに手でも繋いでおけば良かったと、後悔の念が出てくる。
はぐれた今、そんなこと言っても仕方がないってことは分かってるけど…



そしてふと、いつかの会話を思い出す。


『あそこに行きたい』確かに梨加ちゃんはそういったいた。そこは文房具屋で、私と梨加ちゃんが歩いてきた道沿いにあったはず。
いつもは物覚えの悪い私だけど、梨加ちゃんのことだけはしっかり覚えてるから。


遅い足に全力で働きかけて、私はそこに向かった。









少し走った先に見えた、その文房具屋の看板。



そして、私の好きな背中。






「梨加ちゃん!」
「わわっ…友香ちゃんっ」
「も〜心配したよぉー」
「え?なんで?」
「え?私いなかったのに気付いてなかったの…」
「あ、ごめん…ずっと見てたから…」
「そうだね。まぁいっか、本当にいなくなったわけじゃなかったし…」



その背中にすぐさま抱き着いたけど、まさか私に気付いてなかったなんて。
なんだか咄嗟に抱き着いた自分がばかみたいだなって思ったけど、鉛筆を手にして優しく微笑む彼女があんまりにも可愛いから、よしとすることにする。


梨加ちゃんと一緒に店内を見て回り、梨加ちゃんの可愛い顔を眺めてたらすごく面白い。
欲しいと思って輝いた笑顔を見せると、値段を見てはぁ、と溜息をつき悲しい顔をする。
表情豊かだな、ほんと。


悲しい顔を見るのが耐えきれなくて、ちょっといいとこ見せたくて私は一本ずつ鉛筆と色ペンを買ってあげた。梨加ちゃんは遠慮してたけど、そのとき見せてくれた最上級の笑顔で、私はおつりを出したいくらいだった。





「じゃあ次どこ行く?」
「ふふ、どこでもいいよ?」
「ん〜と。じゃあ適当にいこ〜!」
「お、お〜?」



今度はしっかり手を繋いで、私たちは店を出た。

















END.

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