短編小説U

□大浴場で
1ページ/2ページ




ぱしゃ…


「…ふぅ…」



私、小林由依は今、一人ででかい大浴場に入っている。


その理由はつい一時間前________





「…お風呂がない…」


仕事のためにホテルに泊まることはもちろん知っていた。ただまさかゆいちゃんと一緒だとは思わなくて。
ゆいちゃんはなんか仕事の打ち合わせがあるとかで三十分くらい遅れてくるらしいから、とりあえず先にお風呂にでも入ろうと思って部屋に入ると、どこを見たって見当たらないお風呂場。


まってまって。そう思い急いでマネージャーに確認すると「大浴場あるから」とだけ言われた。いや、当たり前みたいな顔で言われたけどさ、これピンチだよね?





__________ということで、いそいで大浴場に駆け込んだわけです。


私は織田みたいにあまりメンバーに体見られるのも好きじゃないし、一番やばいのはゆいちゃんだ。
だって、お風呂でしょ?つまりその、当たり前に裸なわけで…
見たことはある。でも、状況が違う。
そういう時、に見るのとゆいちゃんが何も意識してないのを見るのには大きな差があるんだ。
私は、いつでもそういう風に見てしまうから…



「…あー考えるな!」


お湯を自分の顔に勢いよくかけて、頭の中に浮かんだイメージをはらう。


ガラガラガラー


「っ!!!」
「あれ?由依じゃん。早くない?」
「ほんとだー。こばなら最後あたりに来ると思ってたわ。」
「…あ…」


愛佳の言葉で気付いた。なんで早く入ろうとしたんだろ。最後に入れば良かったんじゃん。


やってきたのは志田、織田、梨加ちゃん、鈴本、守屋の寮メンたち。
ややこしい奴らがきた。
本当はこいつらが来る前にあがっておきたかったけどしょうがない。ここは諦めよう。
今あがっても怪しまれるだけだ。


「ところでこばさ、なんではえーの?」
「…それは、ほら。疲れたし。」
「今泉は?」
「…打ち合わせで。」
「へぇー。待たなかったの?」
「ま、まぁそうなる。」
「…怪しいー」
「は?」
「おかしいよね。なんか。」
「分かる。」
「んぅ…」
「ほら。べりもそう思うっしょ。」
「待ちそう…?」


梨加ちゃん…!!あぁ、味方だと思ってた梨加ちゃんに勝手に裏切られた気分だ。
みんなが私をにやにやしながら、またはジト目で見つめてくる。私は必死に睨み返してるけど、さすがに五人の視線に一気に対抗するのは難しい。


「おー寮メンもういたんだー!」
「あ、平手じゃん。打ち合わせもう終わったの?」
「そうだよー。もうちょっとで今泉もくるよ。」
「なっ!?」
「こば?」
「…いや、なんでも…」


睨みあっているとまた扉が開いて、ぎくっとしたがやってきたのは平手だった。
セーフ。でもこのままだとゆいちゃんも来てしまう。みんなはいきなり立ち上がった私をおかしい目で見てきたけど、ここはどうにか切り抜けないと…




ゆいちゃんの裸を見てしまうか。



それとも、



頑張ってこいつらにからかわれるのを防ぐか…






「…っ」




しょうがない。なにか勘づかれるかもしれないけどここは上がってしまおう。



ばしゃっとまた立ち上がったその時。



「おっふろだぁー!!」
「…ゆ、ゆいちゃん…?」
「わぁゆいぽん。ここにいたんだ。部屋にいないからびっくりしたよ?」
「あ、うん。ごめん。」
「みんなも早いねー。てち置いてかないでよ〜」
「だってずーみん遅いんだもん。」



タオルを身に巻いたすっごい可愛い恋人が、きてしまった。
私はすっと浴槽にまた座り、そっと目を閉じた。
なんだかメンバーの笑い声が聞こえるけど無視だ無視。ゆいちゃんの裸を見ることだけは避けないと。


薄目を開けてゆいちゃんを探すと頭を洗っていた。
よし、チャンスだ。今しかない。


あがってやる!!



目をもう一度思いっきり閉じて走り出そうとしたとき。ふいに大好きな声で「ゆいぽん!」と呼ばれてしまった。



私は、足を止めることしかできなかった。




「ゆいぽん。もうあがるの?」
「…うん。」
「じゃあまたあとでね?」
「っ…はい…」
「わっ…今日はなんか動きが早いな〜」



見たしまった見てしまった見てしまった…!!



ゆいちゃんの体、なにも羽織ってない体、素の体。


胸とか、胸とか…あーもう色々やばい。



やばい。今日の夜、我慢できないかも…


だって、消えさせることができない。
ゆいちゃんの体の記憶が。














.
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ