短編小説U

□心の底にある想い。
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おんなじ名前のその子は、私とは正反対。
オーディションのとき「ゆい」って子がいるって分かって、正直嫌だなって思った。
だって、おんなじ名前の子なんて同じグループにいるかなって。
そういう思いがあったからか、私たちは合格してからもあまり接することもなく過ごしていた。


「小林由依、さん。…あっ、ゆいぽんでいいかな?」
「うん。いいよ。」


まさか、「ゆいちゃんず」が結成されるなんて思ってもいなかった。
ゆいちゃんは私より一個年上。それもあるのかなんとなくやっぱぎこちなくて。


ゆいちゃんずを結成して分かったこと。
どうやったら仲よくなれるんだろなって思ってゆいちゃんを観察することが多くなった。
ゆいちゃんはまず、優しい。
どんなときだって笑顔で絶対辛いときでもみんなの前では出さないで、よく一人で泣いていた。私は気付いたけど、声をかけることができなかった。
それと、誰よりも頑張りやさんだ。
優しいってとこがここにも入るんだけど、影でいっぱい練習してて、一人汗だくになってるのをよく見かけていた。


観察して分かったこと。



私はあんまりこの子とは仲良くなれないな、ってこと。


私的には隠さないで言えばいいのになって思うから。
ひたすら笑顔で、きっとみんなに心配させないようにしてるんだろうけど逆効果でしょ。




だからこれ以上、私たちの関係は深くなんないんだろうなって思ってた。







「はぁ、うまくできないし…」
「…」


ある日、ゆいちゃんと二人でギターの練習をしていた。多分、私の中で一番か二番目くらいにやりたくないことだった。私は元々独学でギターやってたからそれなりに弾けるけど、ゆいちゃんはほとんど初心者だからまだあどけない感じ。


私は楽譜を見てどんどん進めてるけど、ゆいちゃんはまだコードが分かんなくて最初の方でつまづいていた。
私が手助けしてあげればいいのかもしれない。そしたらきっと喜んでくれるのかもしれない。
けど私は、しない。
教えてほしかったら言えばいい。そしたら私はしっかりと教えてあげるよ、もちろん。


でもゆいちゃんはきっと、言わない。
今も隣でただ困って、泣きそうな顔をしてるだけ。





それだけで、終わりなはずだった。




「ゆいぽん…」
「…え?」
「ここ、分かんなくて…教えて、ほしい。」


ゆいちゃんが私に、教えてほしいと頼んできた。


あ、私じゃないかも。
いやでも今ここには私とゆいちゃんの二人だけだし私の方向いて言ったし…



「だめ、かな?」



だめじゃない。だめじゃないよ。
「いいよ」たった三文字の言葉を発するだけでいいのに、私は言うことができない。
胸がなんだか、騒いでいて。



ゆいちゃんを見つめることしかできなくて。



「ゆいぽん!」
「っはい。」
「やっぱりだめだったかな…」
「いい、よ!」
「…ほんと?」
「うん、ご、ごめん。ちょっと、ね…」
「じゃあ、ここ教えてほしいんだけど…」


ゆいちゃんの言葉で無理やり言葉が出された。
なにやってんだ、私。らしくないぞ。
軽く胸を叩き、ゆいちゃんに近づいて教えてあげる。


あれ?このコードってなんだっけ?
どうやって弾くんだっけ?


分かってるはずなのに、なぜか頭がグルグルしてうまく教えることができない。


それどころか、私はギターなんかじゃなくてゆいちゃんばっかり考えてしまって。


時間が、止まっているような感じがした。



「できた!!」
「…は、」
「できたできた!ゆいぽんすごいね!ありがと!」
「え、うん。良かったね。」
「ありがと〜教えてくれて。」
「っ…」


できた、といつもより数倍輝いている笑顔を向けて抱き着いてきた君は、なぜだかとても愛おしく思ってしまって。


可愛い、と思ってしまって。


抱きしめ返す気なんてなかったのに、私はゆいちゃんを体の中に閉じ込めた。











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