短編小説U

□気持ちの抑え方を教えて
1ページ/1ページ




「平手。」
「…」
「…」
「はぁ…」
「わっ!!」
「うっわ!?ってもう鈴本かよ…びっくりさせないで…」
「なにぼーっとしてんの?理佐先輩に怒られるよ?」
「知ってるわばーか。」


部活中。まだもちろん練習の最中だけど“また”あの子のことばかり見てしまう。
私が所属しているバスケ部のマネージャー兼恋人の、長濱ねる。鈴本は私たちが付き合っていることを知らないから気付かないんだろうな。
最近、ねるはどんどん可愛くなっていってる気がするんだ。
いや、確実に。
私たちが付き合ってから一か月が経とうとしてる。ねるは覚えてるのかわかんないけど。
部活中でさえも、見惚れてしまう。


「平手!!!」
「ったぁ!!??」
「お前どこ見てんだよばかか!!」
「す、すいません!!」


パス練をしてたんだけどねるを見すぎてボールをキャッチし損ねた。そのせいで半端に構えた手に思いっきり直撃。指に力が入らない。
やっちゃったよ。突き指だ。
理佐先輩がこっちを睨んで「怪我してないよね」と無言で聞いてくる。
私は咄嗟に「大丈夫です」と言ってそのまま練習を続けた。







「っつ!」
「平手ほんとに大丈夫?」
「大丈夫。ちょい当たっただけ。」
「ならいいけど…っとマネージャー?」
「ね、ねる?」
「てち…」
「な、なに?」


休憩中、鈴本に声をかけられ心配された。ばれるかなって思ったけどなんとかやり過ごせる、はずだったのに。
ねるがこの華奢な体でどんどんと地響きが聴こえてきそうな勢いと鬼のような形相でこちらにやってきた。
そして、私の手を掴んだ。


やっば。


「やっぱり。いつもより切れが悪いと思った…」
「えへへ…マジックだよ?」
「てち?」
「す、すいません…」
「理佐先輩」
「ん、どうしたのねる…って、まさか平手?」
「てち、怪我隠してたんです。突き指してます。」
「平手あとでぶっとばす。」
「え〜先輩怖い。」
「あ?…はぁ、とりあえずねる手当てしてきてあげて。」
「はーい。いくよてち。」
「うぅ…はい。」


まだ練習続けたかったのに。この後のドリブルシュートが楽しいっていうのにさ。
それを言ったらまた睨まれるから言わないけど。
部員から離れねると二人ステージの上に腰かける。


「あれ?ないな…」
「どうかした?」
「いや…テーピングしてあげようと思ったんだけどなくて…」
「ならいいよ!これぐらいよゆーだし」
「もうキスしてあげないよ?」
「…ごめんなさい…」


ねるは理佐先輩のとこに駆けていって、私のとこに戻ってくると「保健室行くよ」と言って私の手首を掴んで引っ張っていく。
みんなを見るとちょうどドリブルシュートの練習が始まるときで、私は溜息をつきながらねるについていった。





_______________________





「はい、おとなしくしてねー」
「子供じゃないんだけど…」
「いいから。」
「むー」


絶対私のこと子ども扱いしてると思うんだよねー、ねるってさ。
今だって私の頭なんか撫でちゃってさ、そんなことされなくたっておとなしくするし。早く練習したいから。
…だったら突き指したこと早く言えよって話だよねー。


「…」


ふと、ねると今二人きりなことに気付いた。


「…てち?」
「あ、いや…なんでも…」


先生もいなくて、本当に、二人きり。
私の指ばかりを見るねるの顔を見つめていると、ねるの唇も目に入るのは当たり前のことで。
だめだってわかってるけど、「したい」って思っちゃって。私は、気持ちを抑えられなかった。


「んぅ!?」
「…っはぁ…ねる。」
「て、ちっ!ばか。今テーピング…!」
「ん、それより…キスしたいから。」
「も、やめっ!」


私の指に半端に巻かれたテープがぶら下がっている。そこに違和感を感じながらも、私はもうねるとのキスに夢中になってしまってて。
やばい。なんか今日はいつもと違う。
唇が触れるだけのキスじゃ、足りない。
もっと、ねるが欲しい。


「んぅ!」
「ねる。」


よくわかんないけど私の脳は勝手に命令を下して舌をねるの口内に入れた。
もちろんそこにはねるの舌もあるわけで、私とねるのが絡み合う。二人きりの保健室に、変な音が響く。
ねるの呼吸がどんどん荒くなっていってるのが絡まりあった口から伝わってくる。その新しい感覚に私はもうはまってしまって自分の体が傾いていってることに気付かなかった。



ガターンッ


「あったた…」
「いったぁ…はぁ…はぁ…」
「あ、しまっ!ねるごめん!!」


そのまま座っていた椅子が倒れて、私たちの体制も崩れた。下にいる顔を赤くして睨んでくるねるを見てやっと自分のしたことに理解が追いついてくる。
私は今、二人きりの保健室で、テーピングをしてくれていた恋人に、いきなりキスをして、いきなり…
舌を入れた?


「…い、いまのなに?」
「…へ?」
「なんで今、その…した…い、いれたのさぁ…」
「っはぁ…わ、わかんない…」
「てちのばかぁ…」
「ごごご、ごめん!!」
「もうやだぁ…」
「だって、ねるが可愛いからぁ…」
「そんなの理由にならない。」
「えぇ…」
「もう怒った。てちとはしばらくキスしない。」
「え、なんで!?無理だって、耐えきれない!」
「耐えて。栗太郎にでもキスしてればいいじゃん。」
「好きな人しかキスしたくないに決まってんじゃん!」
「そういう問題じゃないじゃん。じゃあキスしなくてもいいでしょ!」
「それはだめ!」
「意味わかんないし…もういい。早く部活に戻るよ。」
「え、ちょっと待ってよねる!」
「知らない。」


バンッとねるは勢いよく扉を閉めて出ていってしまった。


「…はぁ。なにやってんだろ、私…」


自分の口を抑えて、さっきのキスを思い出しながら私も体育館に向かった。





しばらくねるは口をきいてくれなかったし、キスも許してもらえなくて私はあんなことをしてしまったことを後悔したけど、あれは間違いなく、可愛くなっていくねるのせいであって…
決して、我慢できなかった私のせいじゃないんだ。










END.

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ