短編小説U

□むかつく
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ピンポーン



いつものように家の前に立ち、寒くて冷たい手を摩りながら息を整えインターホンを押す。
そうするとまたいつものように外からでも聞こえる階段を降りてくる足音が聴こえてきて、なんとなく安心して、心もあったかくなった気がするんだ。




「ごめんねる。寒いでしょ?」
「ううん。だいじょうぶ。」
「嘘だよ。顔、赤くなってるから。」
「んむっ」
「ははっ、やっぱ冷たいじゃん。」
「もぉ…早くいこ。」
「うん。」



幼馴染のゆいぽん。たまたま家も近いからこうやって一緒に登校するのが日常になっていた。
私が「大丈夫」って言ったらゆいぽんが私のほっぺをつねって笑ってきた。ひどいよね〜勝手にやってばかにするとかさ。


でも、やっぱりゆいぽんは優しい。
私の手を優しく撫でてくれて、ついでにマフラーを巻きなおしてもくれた。それで、私を子供扱いしてるのか頭をくしゃくしゃにしてきた。



うん。あったかくなったどころか、すごい熱くなっちゃったな〜。




いつもクールで、でも実は誰にでも優しくて、たまに見せてくれる笑顔が可愛くて。
考えれば考えるほどいっぱい出てくる、ゆいぽんの好きなところ。
なんか、いつの間にか好きになってたんだよ。そんな幼馴染のことが。












「ねる。じゃあまた昼休みね。」
「うん。お弁当ちゃんともってきてね。」
「分かってる。」



色々考えてたらもう学校に着いてて、本当は少し残念だけど普通の顔して別れた。
次、ゆいぽんと会えるのは昼休み。いっつも会えてるけど好きだからいつでも会いたいって思うけど、私たちは違うクラスだからしょうがないと諦める。


ほんと、なんでこんな奴のこと好きになったんだろう。
昔は小っちゃくて頼りなくて、私の方がゆいぽんのことを守ってあげてたのに、気付いたら少し上を見ないと目が合わないようになってた。
勉強はそんなにできる方じゃないけど、体育のときだけは結構キリッとしててかっこよかったりする。



授業中、ふと外を見るとちょうどゆいぽんのクラスが体育をやっていた。やってるのは…50mかな?
私が見てると、ちょうどゆいぽんの番が回ってきて、ラッキーだなって思った。



「長濱!!」
「はいっ!?」
「お前外ばっかり見てるんじゃねーぞ…」
「す、すいません!」


思ったのに、先生の怒声に遮られ、急いで外を確認するともう終わっていた。
しばらく先生のことは恨むことにしよう。








キーンコーンカーンコーン…






自分のカバンからお弁当を取りだして教室を少し早足で出る。ゆいぽんの走る姿見れなかったからより会いたいと思って。
いつも待ち合わせてる学校の中庭。そこのベンチで食べてるんだけどまだゆいぽんは来てなかった。そっか、さっき体育だったしな。そう思って先に座って待ってようとしたら、絶対ゆいぽんじゃないって感じで、私の腕が掴まれた。



「あのさ、ねるちゃんだよね?」
「…先輩の方ですか?」
「もしよかったらさ、俺と一緒に食べない?」
「え?」



誰だこの人。出かかった言葉をネクタイの色を見て抑え込む。私たちの先輩だから、下手になんかすると面倒くさそうだし。


でも、困るな〜。
この人絶対下心あるし、私ゆいぽんと食べたいんだけど。一緒にいるの見られて彼氏とか勘違いされたらやだしな…






っていう、心配はなんかいらなかったみたいだけど。







「先輩の方ですよね。」
「あれ、お友達?君も一緒に「すいません」
「あ?」
「この子、実は私の彼女で。」
「いやいや、そんな嘘…」
「…へ?」
「そういうことなんで、早くあっち行ってくれませんか?」





挙句の果てには、ゆいぽんの芝居に付き合わされて、キス、されて。


…ん?きす?





「ゆいぽん!?」
「はぁ…なにあの人、気持ち悪い。」
「そ、そこじゃないでしょ!」
「え?もしかして彼氏だった?」
「違うよ!だからそうじゃなくて…」
「…なんで顔赤くなってるの?」
「そんなの、だって、き、きすしたから…」
「よくみんなやってない?それくらい。」
「それは…そう、だけど…」
「…早く食べないと時間なくなっちゃうよ。」
「…そう、だね。食べよっか。」




動揺するのは、私だけ。知ってるけど、人のファーストキス奪ったんだし、ていうかキスしたんだからなんか思おうよって思うんだけど、何事もなかったように食べ進めるゆいぽんに私はありがたみなんて忘れて、頭を軽く叩いてあげた。



もう、ほんとに…この幼馴染は。
少しくらい、意識してもいいじゃん。








「…ばか。」
「ん?なんか言った?」
「別に。」
「なんで怒ってるの…」
「ばか。」




それでも、やっぱり好きって気持ちは揺るがなくて。


でも、「好き」って言える日は、、まだまだ先になりそうだ。













END.

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