短編小説U

□オダナナ日記2
1ページ/1ページ




○月△日×曜日


天気は晴れ。

私の心も快晴です。



今日は愛佳、理佐、茜、ぽん、今泉と一緒の仕事が入っていた。
珍しい組み合わせだとは思いながらも、まぁ楽しそうだなっても思ってて、私はウキウキ気分で現場に向かった。


「おはよ〜」
「よっ、だに。今日も顎可愛いね。」
「愛佳?朝っぱらからディスり?」


私の反応が満足だったのか愛佳はカカカと笑って携帯に顔を向きなおした。
まったく。お前は男子小学生かってね。


愛佳で存在が薄れてしまったけど、楽屋にいた理佐、茜、ぽんも挨拶を返してくれた。
いや、ぽんだけは幻聴だったかもしれない。私の耳に届いたときマッハの速度でぽんを見たけど口が動いてなかったから。


今日はこのメンバーかぁ…
ん?あれ?
いや待てよ。確か今日は私を合わせて6人での仕事だったはず…
そう思って、指を指して数えてみる。
愛佳1、理佐2、茜3、ぽん可愛い4、…え、4!?あぁ私よ私5。


5?一人足りない。
えっと、あと一人は…



「そういえば、ずーみん遅いね。」


理佐が珍しく口を開いた。ぽんを見ながら。
そうだ、ずーみんだ。このメンバーにはあまり似つかわしくないからなんとなく抜けていた。
でもあのずーみんがねぇ…ぽんは「そうだね」と携帯をいじりながらクールに返した。
まぁまだ遅刻するような時間じゃないし、大丈夫だろう。


あ、そうだ。ツムツムやんなきゃ。
そう思い私も携帯に手を伸ばしたその時。



「でははじめマース!第○○回のろけ&彼女自慢たいか〜い!!」



なんだこいつ。一人バカが混ざってるぞ。
そんな目でみんなが愛佳を見たものの、愛佳はそんな怖い顔すんなよ〜ってにこにこしあまり気にしていないようだった。



「…愛佳。バカも大概にしないと飽きられるよ。」
「じゃあ茜は友香のこと好きじゃないの?」
「はぁ?んなわけ」
「私は愛してるぺーたのことならなんでも知ってるからみんなに話すことなんて私のぺーたの知識の一割にも満たないわけでめちゃくちゃよっゆ〜なんだけど?」


愛佳って屁理屈が上手。
前にぺーたんがそう言ってたのを思い出す。なるほど、これはぺーたんも手をやいちゃうわ。
でも一番予想外だったのは、茜の反応だった。


「愛佳?友香の可愛さ思い知らせてあげるよ?」
「さっすが茜〜」


ちょろい。そんな声が聴こえてきそうだった。実際、茜は本当にちょろいと今証明された。これは今後使えそうだ。

理佐とぽんは一瞬嘘でしょという声が漏れそうな顔で愛佳たちの方を見たけど、私には関係ないといわんばかりに顔を逸らした。

が、


「りさぁ〜ねるがこの前私に理佐の不満言ってきたよ?」
「なんて?」
「参加してくれたら教えてあげる!」
「やる。」


いや…え?いやいや…




よっわ!理佐よっわ!!??



という顔で私とぽんはほぼ同じタイミングで理佐の方を向いたと思う。
私は運営さんに切実に愛佳と理佐のザ・クールという名前を抹消してもらいたいと心の底から思った。
ぽんは「理佐まで…」と怪訝な顔をして溜息をついた。分かるよ分かるよぽん、今だけは私と同じ気持ちだねうんうん。
感動している私をよそに、愛佳はぽんの方に笑顔を向けた。


はぁ、もう愛佳ったら…
うちのぽんちゃんがあなたの言葉で心が揺れるような子だと思ってるのかしら?ザ・クールっていう肩書もうぽんちゃんに譲っちゃいなさいあなた。


そんな誇らしげに私は愛佳とぽんを眺めた。


「ゆーいっ!」
「…なに。」
「由依も参加するっしょ?」
「いや、するわけ…」
「でも今泉は、由依が彼女のこと自慢してくれたら嬉しいと思うけど?」
「別に聞かせるわけじゃないでしょ。」
「今泉、実は楽屋の外で由依が私たちと浮気してるかもって盗み聞きしてるかも…?」
「ずーみんはまだここにきてないでしょ。」
「わっかんないじゃーんそんなのさぁー」


いやいねーよ。きていないのが愛佳だったらまだしも、さすがにずーみんはそんなことする子じゃない。
っていうより、さすがぽんちゃん。愛佳のどんな言葉に惑わされない。愛佳は何を言ってやろうかと頭を悩ませ、ぽんはまた携帯をいじり始めた。


他の二人も「なに愛佳にのせられてんだ」って恥ずかしそうに席に戻っていく。


少し、ほんの少しだけそのなんとか大会を楽しみにしていた自分もいたけど、まぁこれはこれでいいでしょ。


そう、これで終わりだったはずだった。
私の今日の日記はこのたわいもないもので終わるはずだった。



それを変えてしまったのは、ぽんだった。







「ずーみんあと五分くらいかかりそう。」
「ライン?」
「ううん。」
「テレパシーとか?」
「まさか。」
「じゃあなによ。」
「GPS。」



GPS。ジーピーエス。GPSとはぽん独自のなにかの略だろうか?いやぽんはそんなことしない。だとしたらなに?他にある?
うん知ってるの言わないで人の居場所を勝手に特定してしまうあのかの有名なGPSなわけがないじゃない。


さて、では一体なんのことかな…



「なんでみんな驚いてるの?」



ぽんは冷ややかな笑顔を私たちに向ける。
その顔でさえも、今の私たちには悪魔にしか見えない。


こういうとき、愛佳は頼もしい。


「あはははっ!由依も冗談上手くなってやんの〜」
「た、たしかに〜。もう由依ったら…ねぇ?」
「由依の口からGPSなんておかしいよ。」
「もうぽんったら〜疲れてるんじゃない?」


お願いしますそうであってくださいと言わんばかりにみんなが話しまくる。
だって、信じたくないじゃない。



ぽんが本当に、ずーみんにGPSを付けてるなんて。



「普通じゃないのかな?案外簡単だったし、恋人なんだから、ゆいちゃんがいつどこにいるのか気になるし…あ、教えてあげよっか?」



ぽんは、まるで当たり前のように颯爽としたクール顔で私たち四人でそう告げた。






そんなときだった。


「遅れてごめん!途中で転んじゃって…みんな、ほんとにごめんね?」
「大丈夫だよゆいちゃん。それより、怪我はしてないの?」
「んーん!平気〜心配してくれてありがとね、ゆいぽん!」
「ううん。恋人として当たり前だよ。」



GPSをつけることは当たり前ではありません。
きっとみんなそう言いたかったに違いない。
しかし、私たちは、この空気を壊してくれたずーみんに最高に感謝し、同時に、






彼女はGPSに気付いているのだろうかと、頭を抱えるほどに気にかけるのだった。














END

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ