短編小説U
□曇りのち晴れ
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久しぶりの休み。久しぶりのデート。
それなのに私は今、一人で立ち尽くしている。
勝手に携帯を奪われ、電話を切られたから私もついカッとなって冷たい態度をとってしまった。怒ればきっとゆいちゃんは謝って私が許してあげて、それで終わるはずだったのに。
『ゆいぽんのばか!』
この言葉に、また私はむっときてついつい「行っちゃえばいいじゃん」って心にもないことを言ってしまった。
それが、約三十分前。
なんだかんだいって、戻ってくると思ってた。謝りながらきっと戻ってくると思ったのに、私は今一人。
意味が分かんない。
なんであんなに怒ってたのかも分かんないし、ゆいちゃんが戻ってこないこの状況も分かんない。すっごくイライラする。
そんなときに届いた一通のライン。相手はさっき電話してた織田だった。そういえば謝るの忘れてたことに気付いてついでに送ろうと思いながら内容を確認する。
『ばーか』
「…」
なんだこれ。なんでゆいちゃんと同じこと言ってくるの。
織田のせいでよりイラついてきて、今の想いを織田に文面で伝える。
『なんなの?イラつかせたいの?』
『どうせ喧嘩したんでしょ』
なんでわかるんだよ、こいつ。
『可哀想だな〜ずーみん。きっと今頃泣いてて変な男にでも捕まってるんじゃない?』
『は?』
『誰かさんのせいでー可哀想ー』
「…むっかつく…」
なんで泣いてるの。いや、織田の口からでまかせかもしれないし…
そう思う反面、どんどんゆいちゃんが心配になってくる。もしかしたら本当に男と一緒かもしれない。ゆいちゃんばかで単純だから簡単に連れていかれそうだし、力も弱いし、なによりめっちゃ可愛いし…
色々考えて、織田から最後の後押しが。
『ずーみんの恋人でしょ。由依はさ』
「っあああーー!もう!!」
携帯を雑にポケットに突っ込み、私はどこに行ったのかも分からないゆいちゃんに向かって走りだした。
「…なんで出ないの…」
しばらく走って「なんだ、電話すればいいんじゃん」ってことに気付きコールボタンを押したのに、一向に出ないゆいちゃん。
どうしよう。本当に連れてかれちゃった…?
嫌な予感が頭をよぎる。絶対に違うって信じきれないから嫌になる。
デートを始めてからもう三時間くらい経った。喧嘩なんてしなければ今頃あそこらへんの人たちみたいにいちゃいちゃしてたのに。
せっかくの久しぶりのデートだったのに。
…あ。もしかして。
ゆいちゃんが怒ってた理由、もしかしたら分かったかもしれない。そうだよ、なんだ、私のせいじゃん。
「っ、ごめんゆいちゃん!」
届くはずは、ないけれど。
そう言って私はまた、頭の中にあるゆいちゃんがいる可能性のある場所に向かい始めた。
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「はぁ…はぁ…」
もうあたりは暗くなってきて、街灯もつき始めた頃。私はもう体力の限界で息を整えながらゆいちゃんを探していた。
途中でもう一度電話してみたんだけど応答無し。なんで出ないのと思いながら自分のせいかと後悔もする。
ゆいちゃんに、会いたい。
早く会って、「ごめん」って言って、抱きしめたい。それなのに全然会えそうにない。
帰れば、明後日には仕事で会える。私が今ゆいちゃんを見つけなくても時間がくればゆいちゃんだって勝手に帰るだろう。
なんて
「できるはずないし…!」
そう思ってまた走るとついた噴水広場のところ。数回見たことあったかなってところだったけど、そこのベンチに座ってる、飽きるくらい見てるその姿。
「ゆいちゃっ…!」
すぐ愛しいその名を呼ぼうとしたけど、変な男たちに絡まれて困った顔をしてることに気付く。
私今、本当に虫の居所が悪いんだけど。
「やめ、て!」
「いいじゃんちょっとくらい。寂しかったんでしょ?」
「で、でも…」
「そんなおこ「あの」
「っ!」
「この子、私と遊んでたんで。」
「君も一緒に遊ぼうよ。」
「…あ?」
「あ、いや…なんでもねーよ!」
「…」
男たちが怯えて帰っていく。
ゆいちゃんと二人になって変な空気が流れるけど、私はゆいちゃんの体にあの男たちの手が触れたことが許せない。
この子は、私の恋人だ。
「ゆいちゃん、いこ。」
「え、ゆいぽん…」
「…明日休みだから、ホテル行かない?」
「うん…うん?」
「決まりね。」
「え、なんでホテル…?」
「とりあえず、ホテルで話そう。ゆっくり。」
ゆいちゃんが掴まれていた部分を意識して掴み、タクシーを捕まえてホテルに向かうように運転手さんに言った。
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