短編小説U

□心の底にある想い。
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せっかく仲良くなったのに、あれ以来ゆいぽんは近くにきてくれなくなった。


ギターの練習中、ゆいぽんに教えてもらっていた途中に急に顔が近くなってきて、そのまま、キスされた。


もちろんびっくりした。けど何かを言う前にゆいぽんは走り去ってしまって…



ゆいぽんはなんで、私にキスしたんだろ?
どうして、その後逃げてしまったんだろ?


私、頭悪いから分かんないよ…


ねぇゆいぽん。教えてよ。
決して振り向いてはくれないその後ろ姿に、そう語りかける。



「っ!?」


ゆいぽんばかりを見ていてステップが崩れてしまった。やばい。倒れる。


ぎゅっと目を瞑って、痛みを覚悟したその時。


ぼんっと、絶対に床ではない感触が体に伝わる。


…え?


「ゆ、ゆいぽん!?」
「あったた…」
「大丈夫?痛くない?」
「…」
「ゆいぽん?」
「…大丈夫。もう行くから。」
「え、」
「…」


目を開けると下にはゆいぽんがいて私のことをかばって下敷きになってくれていた。
絶対痛いはずなのに、大丈夫って言って。
また、また離れていってしまう。
どうしてお礼も言わせてくれないの?
どうしてまたそうやって…


私は咄嗟に、ゆいぽんの腕を掴んだ。


「っ…」
「やだよ…いかないでよ…」
「ゆ、ゆいちゃん?」
「なんで、なんでさけるのさぁ…」


久しぶりにゆいぽんと向かい合ったら、なんだか感情が抑えられなくて、涙が溢れてきた。
ゆいぽんが、「ゆいちゃん」と呼んでくれた。
それだけで嬉しかったのに。
今はなんだか、それだけじゃ足りなくて。
ここに、みんながいるなんてこと忘れてて。


私はまた、ゆいぽんに抱き着いた。
あるコードが、弾けるようになったときみたいに。



「ゆい、ちゃん…」
「ばか、ばかぁ…」
「由依がずーみん泣かせたー」
「あーわっりぃー」
「な、ちがっ…!」
「ばかぁ…ばかぁ…」
「〜っ、ゆいちゃんこっちきて!」
「なん、でぇ…」
「いいから!」


でもあのときみたいには抱きしめ返してくれなくて、今度は逆に私の腕が掴まれて引っ張られていった。




私は一体、なにしてるんだろう?












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