短編小説U

□心の底にある想い。
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「…」
「…」



静寂が続く。とりあえず治療室に連れてきたのはいいものの、何を話せばいいのか分からない。


いや、分からないんじゃない。
ありすぎて頭が混乱してるんだ。


もう関わるつもりなんてなかった。
もちろん、同じグループだしそんなのは無理だろうけど話さなければいつかそれが普通になるんじゃないかなって思ったから。



そんな空気を壊したのはゆいちゃんだった。



「っ!」
「…」


壊したっていってもたださっきみたいに抱き着いてきただけ。
何も言わず、すすり声だけが聴こえてくる。


ゆいちゃんは私を抱きしめるけど、私は背中に回した手で抱きしめ返すことができない。
そんな権利、私には無いから。
そんな想いとは裏腹に、私には「抱きしめてあげたい」って感情がこみ上げてくる。
だめだ。だめだよ。
私には、できないよ…


力が抜けて足がもたれる。


ふらっとするけど


ゆいちゃんは踏みとどまった。


「…なんでさっきみたいに支えてくれないの?」
「…それ、は…」
「なんで、あの時みたいに抱きしめて返してくれないの?」
「…だって…」
「…私は何も言ってないんだよ。」
「え?」
「ゆいぽんは、私にキスしたこと気にしてるんでしょ?」
「…」
「私は、嫌っても、嬉しいっても言ってないよ。勝手に決めつけて、勝手に離れるなんて…ひどいよ…」
「ゆい、ちゃん…」


それは、期待しちゃう言葉だよ。
力なく私の胸を規則的に、ゆっくりと叩いてくる。


「…好きなの…」
「…うん…」
「好きになるなんてだめだってわかってた…でも、気付いちゃったんだ…」
「うん…」
「好きで好きで…近くいるだけで良かったんだ。」
「そう、だね…」
「でも、壊しちゃって…」
「ゆいぽん…」
「嫌われると思った。だから、近くにいるなんてできなくて…!」
「うん。」
「今もまだ、大好きなのに…!」
「ねぇ、ゆいぽん。私も言いたいことあるんだ。」


私の頬に流れた涙をそっと手ですくいながら、ゆいちゃんは言った。







「私も好きなんだよ、ゆいぽんのこと。大好きなんだ。」



「ゆい、ちゃ…!!」
「ばかだよゆいぽん。私の気持ち考えてよ…」
「ごめん、ごめん…!」
「ばかぁ…!」



きっとどっちもバカだったんだろうな。
だから言えなかった。
言うことができなくて、気持ちが先に動いてしまって。



二人して抱き合いながらしゃがみこむ。
きつくきつく、抱きしめる。
あのときよりも大きな気持ちをのせて。




ギターを教えるだけならちゃんとできるのに、
告白っていうのは難しいんだね。
気持ち、伝えるっていうのは。



さっきはゆいちゃんから引き出されて出た言葉を、今度は私が自ら出す。



「あの、ね…もう一回言っていい?」
「うん…言ってほしい。」
「好きなんだ。ゆいちゃんのこと、特別なの。…だから、だから私と…」
「うん。」
「付き合ってください…」
「…これが、答えだよ。」
「…やばい。好きすぎて死んじゃうかも。」
「死んだら許さないから。」
「ごめん。…もっとほしい。いい?」
「うん。」




何度も何度もキスを重ねる。


背徳感のあるキスなんかじゃなく


しっかりと、感じることのできるキス




これから


思い出もたくさん、重ねていけたらいいな。



キスをしながら強くそう思った。













END.




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