短編小説U

□そこに私は座れない
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愛佳がいなくなって約二か月。理佐が愛佳の代わりになって約一か月。



梨加ちゃんがいなくなって、三日。


何日か前から梨加ちゃんの様子がおかしいのはわかってた。それに理佐が気づいてたのも。
理佐は私の話を聞き入れてはくれなくてずっと愛佳の代わりとして頑張っていた。そんなの、ただ辛くなるだけだっていうのに。
でもそれはきっと理佐も知っている。理佐はそれでも、梨加ちゃんのそばにいたかったんだろう。
理佐がいつから、どれほど梨加ちゃんを想っているかは、私しか知らない。好きな人のそばにいたいっていう気持ちも、分かるよ。






私は理佐が、好きだから。



理佐は梨加ちゃんがいなくなった日からレッスンにこなくなった。部屋にも入れてくれなくて、ラインも返してくれないし電話にも出てくれない。理佐もいなくなってしまったんじゃないかなって不安しなるけど、寮母さんが無理やり部屋に入ってちゃんと確認してくれているから、まだ大丈夫。
せっかく久しぶりのイベントが決まって、みんなも頑張ろうって意気込んでたとこだったのに、梨加ちゃんがいなくなったからそれも全部パー。もちろん、梨加ちゃんが悪いわけじゃない。愛佳が、悪いわけでも、きっとない。
誰が、なにが悪いのかなんて、私たちには分からないんだ。



「ねる。」
「てち。」
「理佐、今日も連絡つかないの?」
「…うん。だめ。」
「そっか…」


てちの目の下には赤い跡がある。
愛佳がいなくなってからの、梨加ちゃんのような。恋人っていう特別な関係じゃなくても、メンバーみんな、もう心がぼろぼろだ。
私も、もちろん。



でも私は今日、理佐の部屋に行かないといけない。今日新しく習ったダンスの振り、教えないといけないから。





_____________________




レッスンが終わり、私は振付師さんからの資料をもらって寮に向かった。
部屋に戻り、適当にレッスン着から理佐に会うために部屋着に着替える。
持つものをもって、理佐の部屋に向かった。




コンコンッ



「理佐〜。いるよね?」



軽くノックをして理佐を呼ぶけど、理佐は反応してくれない。
もう一度呼ぶ。返事はない。
しょうがないか。
寮母さんから特別に借りたマスターキーを使って扉の鍵を開け、ドアノブに手をかける。



「…理佐、入るよ?」


部屋に恐る恐る足を踏み入れる。前入ったときよりも、どことなく思い空気が感じられる。
理佐はどこに、いるのかな。
そう思いながら進んでいくと、布団にくるまっている、私の好きな人の姿が見えた。
でもその姿は、私の知ってる理佐じゃなかった。
綺麗な茶髪は、今は荒れまくっていて、綺麗な目は、どこか光がなく、綺麗な肌は、涙のせいか赤くなっていてもったいない。
綺麗な理佐は今、ただの存在だけ、みたいな感じで。



「りさ…」
「…」
「りさ、聞こえてる?」


下ばっかりを見て、きっと声は聞こえてるはずなんだけど返事をくれない。こんな様子なら、部屋の外からいくら声をかけても返事をしてくれないだろうね。


こんなの、理佐じゃない。
私は理佐に近づき、理佐の顔を両手で包んで無理やり私の方を向かせてやる。



「ねぇ、理佐。」
「…だれ…」
「っ、ねる。長濱ねる。覚えてないの?」
「…」
「理佐!」


近くによるとよくわかる理佐の力のない顔。
なんだか、いらついてくる。
どんだけ梨加ちゃんのこと、好きだったのかなって。
梨加ちゃんを想う理佐のように、私も理佐のことを想っていた。
それでも、好きな人をなくして悲しむ理佐を見たら、私じゃ絶対敵わないって思い知らされる。


「…ばかじゃないの。」
「…」
「こんな理佐、梨加ちゃんが好きになるわけないじゃん!愛佳ならきっとこんなくよくよしない。だから負けるんだよ?理佐。ねぇ…全然かっこよくない!返事くらいしてよ!!」
「うるさい。」
「っ!?」
「…ねるになにがわかんの?梨加ちゃんの最後の言葉聞いてないくせに…私が愛佳に敵わないことなんてずっと前からわかってんだよ!いきなり私の部屋きて、愛佳と比べて…なにしにきたんだよ…ねるに話すことなんて、もうなにもない。」


私は、なにやってるんだろう。
好きな人を傷つけて、心の傷えぐって…
ううん。違う。わざとやったんだよ。
少しでも私を意識してほしくて、だって、もう理佐の好きな人はいないのに、それでもその人のことしか考えてない理佐が嫌で。
理佐のことが好きな私は、なんにも考えられてなくて。
押し倒されて睨まれて、泣かれて。
私も涙がこぼれて。



「りさ…」
「…ねる…」
「…私じゃ、だめ?」
「…は?」
「私は、理佐が好きなの。」
「…え、どうい」
「違うよ。」
「は?」
「好きなのは普通でしょ。だから、私は理佐が悲しむ姿を見たくない。」
「…」
「理佐。」
「っ!…なに、して…」
「梨加ちゃんと、こんなことしたかったんでしょ?」
「っ、」
「私を代わりにすればいいよ。」
「え、」
「愛佳の代わりを理佐がやった。なら私が、梨加ちゃんの代わりをしてあげる。」
「ね、る…」
「理佐。」
「…」





「おいで?」



理佐は私に抱き着いてきた。
私って、つくづく最低な人だなって思う。
「代わり」だからって、理佐の愛情を求めて。
「ねる」には向けられていないってわかってるけど、「梨加ちゃん」にだってわかってるけど、それでも、私は理佐がほしいから。



キスを重ねる。初めてでもわかるような乱暴なキス。強引に舌も入れられ、苦しくてよくわかんないけど、私は全てを受け入れる。
下に伸ばされた手も、拒むことなんてしない。
私は、理佐が好きだから。



「りさっ、りさぁ!」
「はぁ、はぁ…りかちゃん…!」
「ねぇ、すきって、いってっ、んぅ!」
「好き、大好き。愛してる…!」
「あ、んっ!」



偽りの好きも全て、受け入れるんだ。


体だけの関係でも、理佐の特別になれたならそれでいい。



好きだから、愛してるから。
















END.
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