短編小説U
□君中心
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長濱side
私たちが付き合ってるのがもしばれたら、欅を辞めさせられちゃうかもしれないし、別れさせられるかもしれない。だから、メディアの前では、辛いかもしれないけど、距離おこう。
私はてちにある日こう言った。
てちは「分かった」って言ってたけど、多分、本当のところはあんまり納得してないんだと思う。
でもそれはしょうがない。
だって、私が放った言葉は半分本当で、半分嘘だから。
てちのことは本当に好き。だけど、てちの愛は少し重い。
最初の頃は私もいっぱいいっぱいで気付かなかったし、その愛が嬉しかったんだけど、だんだんと、私の気持ちが追いつかなくなっていった。だからって、嫌いなわけじゃない。でも、どうしても少し休みたくててちといったん距離を置いたことがあった。
それが、私にはちょうど良かった。
てちはその分いつもより大きい愛を私にぶつけてきたけど、それは私とっては平気なもので、逆に心地よいものだった。
でも、一回距離を置いてしまったら、てちは「耐えきれない」と、より重くなるだけだった。
どうすれば、この子といい距離感を築けるか。
「ねる。」
「…」
そんなことを考えていたら、理佐がやってきて「どうかした?」って聞いてきたから思い切って聞いてみることにした。
「大丈夫なの、それ。友梨奈にちゃんと言ったら?」
「だめ。それは、だめ。だから理佐に相談してるんだけど?」
「っ、そう、だよね…」
んー。やっぱり理佐じゃちょっと頼りなかったなぁ。
そう思ってごめんねと言おうとしたら、
「メディアにばれる、とか言えばいいんじゃないかな?」
「?」
「あ、ほら。友梨奈って欅のセンターだし、いくらねるのことが好きだからっていっても、欅を守っていきたい思いはやっぱ強いと思うんだよね。」
「おおぉ…」
「え、なに。」
「ん、理佐にしてはいい案だな〜って。」
「ちょ、それバカにしてない?」
「ふふふ、ありがと理佐。」
理佐からの案は、思ったよりもいい案で、私は心底感心した。
案の定、てちはそれに納得したし。
でも、久しぶりに会ったある日。
てちの愛は形を変えたような気がした。
いかにも機嫌が悪そうで、でも、機嫌の悪さを隠そうとはしてなくて。
「愛が足りない」と訴えているようだった。
からだ中につけられた跡は、その後なかなか消えることがなかった。
消えそうになるときに、ちょうど、てちと一緒にいなきゃいけない日にあたってしまうから。
てちが大好き。
好き。
好き…
痛い。
はぁ…
痛みしかない。
「ったい…!て、ちぃ…」
愛はあるはずなのに、私は行為の中に、愛を見出すことができなくなっていた。
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「ねる!」
「っ!」
「ねる。」
「…りさ…」
「大丈夫?なんか、ぼぉーっとして体調悪そうだけど…?」
「あ、うん…だいじょぶ。」
「そ、っか…」
私は、少し疲れた。
てちと別れたいとは思わない。けど、今は、今だけは会いたくないと思う。
愛の行為に愛を見いだせないなんて…
それじゃあ、あの行為は私にとってただの拷問でしかない。
次会えるのは、会わなくちゃいけないのは一週間後、くらいだろう。
私の体から跡が消えたことは、もうしばらくない。
「…っ!」
「!?」
袖をめくって、誰からも見えないようにその跡を眺めていると、突然誰かに肩を掴まれた。
とっさに袖を戻したけど、遅かった。
「…ねる。それ、どうしたの…?」
「えっと…な、なんでもないっ。」
「…」
「ちょ、理佐?」
「こっちきて。」
強引に腕を引かれる。
こんなとこをてちが見たらきっと、理佐を殺してしまうかもしれない。
だめだ。
そう思った。けど、私はそれよりも…
理佐が私を救ってくれるような気がして、それにすがりたい気持ちでいっぱいだった。
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