短編小説U

□君中心
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理佐side



少し前から、ねるの異変には気付いてた。
そしてそれが友梨奈のせいなのも、私は分かっていた。


二人は仲がいい恋人。私は応援していた。でも、恋をしているねるを独り占めする友梨奈が羨ましかった。


「どうすればいいのかな?」


ねるからそう相談を受けたとき、私は、心の底から何かが湧きあがってくるのを感じた。
これを逃しちゃいけない。
私は頭をフル回転して、答えにたどりついた。
上手くいくかは分からなかったけど、二人の距離が徐々に空いていくのを感じた。
ねるの気持ちが、離れていくのも。


優越感、なのかな。
よく分からない、けど、決して悪いものではない感情に支配されていた私は、それだけでどこか満足していた。


が、


ねるの様子が、またおかしくなった。
私の案を実施したらしい最初の頃はなんともなくって、前よりもいい笑顔をしていたはずなのに。


なにがあったなにがったなにがあった…

私は、怪しくない程度に、ねるを観察した。





そして今日。気付いてしまったんだ。

ねるの体中につけられた、その傷跡に。



「ねる…どうしたの、これ?」
「…」
「…他のメンバーはここにいないし、私は誰にも喋らないから。言って?」
「…てち、が…」
「友梨奈?」

分かってはいたけど、友梨奈の名前を聞いて悪い意味で心臓が跳ねたのを感じる。


「はなれ、すぎたのか…最近、執拗に跡を付けてきて…」
「跡って…友梨奈は印だと思ってるかもしれないけど、これじゃ傷跡だよ…」
「てちを責めないで?…私の、せいだから…」
「違う。」
「…」
「ねるのせいなんかじゃない。これはさすがにやりすぎだよ…」
「理佐…」
「ねる、おいで?」


本当はその傷跡を、残らず私が消してあげたい。でもそんなことはできないってわかってるから、私はねるを呼ぶ。
そして、自分の腕の中に閉じ込める。
優しく、全てを包み込むように。


「どう感じる?」
「優しい…あったかい、それで、安心する…」
「ねるは今、友梨奈に抱かれて、そう感じる?」
「感じれない…痛い。怖い…そんなことしか感じない…」
「そんなんじゃだめだよ…恋人っていうのは、そんなんじゃ成り立たない。」
「でも、私は…」
「別れろとは言わない。けど、ちゃんと伝えよう?友梨奈はそんな悪い奴じゃないよ。」
「り、さ…」
「もうちょっと、こうしてる?」
「うん…ありがと、理佐…」
「大丈夫。」


私は分かってる。
友梨奈はねるにそんなこと言われたら、きっと荒れてしまう。壊れちゃうんだろうな…自分の愛が相手に伝わってなかったんだもんね。
ねるはきっと、それには耐えきれない。

別に私はねると付き合おうなんて思ってない。
だって、恋人、なんていうのはただの肩書で、今ねるを私は独占している。

ねるを傷跡なんかで独占するなんて…
許せないよ、友梨奈。







ねるはこの日以来、私とよくいるようになった。





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