短編小説U
□ちょっとドジな彼女
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「…ねぇ、理佐食べないの?」
「あー…もらう?」
「ほんと!?やった」
「ななこ、梨加ちゃんは?」
「んむ、知らない。」
「そ。」
朝食堂。今日ももちろんレッスンがあるからみんな早起きして今は朝食中。あと一人いればみんな全員そろうんだけど、その一人が一向に来る気配がない。いつもは一緒に朝ご飯食べるけど彼女がいないから私のご飯を見て目を輝かせてるななこにあげた。そしたら早々にどっか行ってしまったけど、梨加ちゃんについては何も知らないらしいからいいとしよう。
どんどんみんなが食べ終わり食堂から出ていく。はぁ。やっぱり寝坊かな。梨加ちゃんのためにも本当は一人で起きてきてほしいんだけどさすがにもう間に合わない時間になってきたからしょうがなく迎えに向かう。
「梨加ちゃん、いる?」
軽くノックをして名前を呼ぶ。返事がないのでもう一度呼んだけど返ってこなかった。
ドアノブに手をかけると開いたので「不用心だな」と思いながら部屋に入った。あまりにも静かなのでちょっと怖い気もする。
寝室に行くと、やっぱりそこにはスヤスヤと気持ちよく寝息をたてる梨加ちゃんが。
「…梨加ちゃん、起きて」
「んぅ…」
「梨加ちゃん。」
「んあ…りさ、ちゃん?」
「今日、レッスンあるよ。」
「…あーそっかぁ…」
「うん。」
「ふふふ…」
「…」
「…」
「梨加ちゃん!」
「ふぁあっ!?」
「起きなさい。」
「眠い…」
「レッスン!」
「…え、今日レッスンだったっけ?」
「早く起きて!」
この人は本当に成人を迎えた最年長だろうか?
そう思わざる負えないほどの頼りなさ。
私は「可愛い」としみじみできる余裕もなく梨加ちゃんを起こして着替えさせ、時間がないからそのままレッスンに向かった。
途中コンビニによって朝ご飯とろうとしたんだけど、梨加ちゃんが財布を忘れてきたのでしょうがなく私が奢ってあげた。
とまぁ、これは日常茶飯事なわけだけど。
まだまだ梨加ちゃんは終わらない。
レッスンが始まりそれぞれ練習する。
最初は個々でやってたんだけど先生がペアになってと指示をした。誰と組もうと思っていると、一人、目を閉じてしゃがんでいる彼女。
先生にばれる前に、私が近づく。
「梨加ちゃん!」
「わっ…あれ?理佐ちゃん…」
「っ。…ペア、私と組んでもらってもいい?」
「うん。いいよ?」
怒ってあげようと思ったのに、驚いた彼女の顔が結構可愛くて、すごい可愛くて、思わずなんか丁寧に。
私も、大概だな。
そのまま梨加ちゃんを見守りながらレッスンを終える。
なんだろう。いつもより疲れた気がする。
帰りも梨加ちゃんと一緒。梨加ちゃんの帰り支度が遅くなったから他の寮メンは先に帰ってた。それに気付いた梨加ちゃんは「ごめんね」と謝ったけど、私は内心嬉しかった。なんだかんだいって、私は梨加ちゃんのこと好きだからね。
でも、ドジっ子というのは二次元だけの話だけだと思ってた。
それこそ、なにもないところで転ぶなんて。
「っ!?」
「梨加ちゃん!?」
それはもうきれいに、ずどーんと転んだ梨加ちゃん。私も咄嗟に手を伸ばしたからそれに巻き込まれる。
女の子二人が道端に倒れこんだ、おかしな状況。
そして、顔が近い。
「…だだ、だいじょうぶ?」
「う、ん。だいじょうぶ…」
「けがしてない?」
「うん。理佐ちゃんこそ。」
「私は全然。…」
「理佐ちゃん?」
「…へ?」
「顔赤い…けど、熱はない?」
転んでいきなり熱を出すことはないだろう。
いきなり、おでこをくっつけられたりしなければ。
顔が一気に熱くなるのが分かってすぐ立ち上がる。梨加ちゃんの手も引いて一応立たせてあげるけど、なんか恥ずかしい。
梨加ちゃんはずっときょとんとしてたけど、無意識にそういうことやられるのはちょっと困る。
ちょっと、どころじゃないくらいドジな彼女のしで、私の心臓は毎日飛び出てしまいそうだ。
END.