ずっと君といたかった

□6話
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長濱side


7月5日

もう、この日が来てしまった。
てちにお願いした、私が大好きだった花火大会の日。

余命を告げられてから約二週間が経ってしまった。
私はまだ、生きている。でも心臓が悪くなっていってるのも本当のことで、最近てちとまともに話せてない。
もっと、話したいのに。

てちは今日、どうしても部活を外せないらしい。だから午前から来れなくて、花火大会が始まるちょうど6時ごろになるって言っていた。
それを言った後、しきりに謝ってくるてちを見て本当に可愛いなって思ってしまった。その時は「大丈夫」って答えたけど、やっぱり少し寂しい。早く来て欲しい。てちの顔、早く見たい。

暇だから、てちから借りた漫画本を手にとって読む。
その漫画は、私の人生とは真逆のあまりにもキラキラし過ぎな内容だったけれど、主人公のバカ正直で単純な性格がてちに似てて思わず笑っちゃうんだ。
…あ、だめだ。これ見たらもっとてちに会いたい気持ちが大きくなっちゃう。
止めよう、何か他のもの、と思って病室を見回す。

漫画本、CD、お菓子、何か変なキャラクターのおもちゃ…

見回して気付く。なんだ、てちのものばっかりじゃん、って。
なんだよ、こんなんじゃ思いが募るばっかり。

てちが来るまで、寝よう。
一ヶ月前までの日常を思い出しながら、まさか今死なないよねって心の中で笑いながら、倒れたときとは違う落ち着いた気持ちで私は目を閉じた。


_____________
_________
_____



…あ、生きてる。
天井が見えて安心して、そのまま時計を見る。

五時五十分

まだ来ないか。
外を見ると、おそらく花火大会のあたりが色鮮やかに輝いている。
きっと、たくさんの人がいるんだろうな。家族、恋人、友達…たくさんの人達が。
あそこにはもう行けない。それは悲しいことだけど、てちが来るからなんてことない。

いろんなことを思ってたらもう六時になっていた。
ドキ、ドキ、ドキ…
胸が高鳴る。てちに会えるって。
あの足音は、いつ聴こえてくるんだろう。自然に耳をすましてしまう。


でも、いつまでたってもあの大好きな足音が聴こえてこない。
…来ない。まだ、来ない。

絶対てちは来る。
そうは信じてるけど、その思いとは裏腹に不安が生じてくる。
てち、まだ…?

ズキ、

「…っ!うそ、止めてよ」

今からなのに。まだ、始まってないのに。

ズキズキ…

「はぁ…はぁ…っ」

てち、てち…
やだよ、ねぇ、てち……!

「早く、来てよ……」

必死に届くはずもないのに呼びかけて、目の端が霞んできたとき。

ガラガラガラー!

やっと、病室の扉が勢い良く開いた。


「ああー!!ねるほんっとごめんっ!こんな予定じゃなかったんだけど!」
「…」
「え、泣くほど寂しかったの!?あーもう、また泣かせちゃった…」

てちは勢い良く扉を開いたと思ったら、勢い良く私に抱きついてきた。
そう思ったのも束の間で、ぱっと私の顔を見て、悲しそうな顔をして「ごめん」って言う。
本当に、単純で大好きないつものてちがそこにいる。

「…ばかっ、早くきてよ」
「え、可愛い…」
「え?」
「や、いや、ごめん。ねるにこれ買ってきてあげたくて…」

そう言っててちは大量の白い袋を私の前に差し出した。

「…なにこれ?」
「買ってきたんだ、屋台のやつ!ねる行けないから、もっと花火大会の気分味わって欲しくってさ…でも、そのせいで遅れちゃったら、意味無いよね…」

あっけに取られた。思わず口を開けてしまう。遅れた理由がそれって…
本当、いい子過ぎるよ、てち。どうしてこうも私を好きにさせるんだろう。

「うわっ、どうしたのねる?」
「ううん。ただ、ありがとって思っただけ…」

私もてちを思いっきり抱き締めた。
あのときはできなかった分、力一杯。


「…あ、もう花火上がっちゃってたね」
「ほんとだ…きれい」
「何から食べる?いっぱい買ってきたよ」

いつの間にか花火は上がってた。
私もベッドから出て、てちと一緒に窓際に椅子を持っていって、テーブルの上にてちが持ってきてくれた食べ物を二人で準備する。
そして二人で椅子に座った。


ヒュ〜〜…ドーンッ!!


「本当、きれいだね…」
「うん、きれい…」

花火が、こんなにきれいに見えたのはいつぶりだろう。
しばらくじっと花火を見つめる。

ドーン!…………ヒュ〜…ドーン!

「…」
「…」

静寂を切り裂いたのはてちだった。

「ねる。あのさ、言いたいこと、あるんだ。」
「…なに、どうしたの?」

その先にくる言葉なんて分かっているけど、私は聞いてあげる。


「私さ、ねるのこと…」

いつもみたいなバカみたいな感じじゃなくて、てちは真剣に私を見つめた。


「好き、だよ。」
「てち…」
「友達とかじゃなくて、特別なんだ、ねるのこと。」


花火の音にも遮られることなく、てちは言った。
いかにも、てちらしい告白だなって思った。
断る理由なんて、いくら探しても見つかるはずないよ。


「キス、したい。」
「…ふふっ、一気に求め過ぎだよ。」
「えへ、ごめんね。ねるのこと、好き過ぎて。」
「ん…」
「…我慢出来なかった。」

てちはそう微笑んだ。
年下のくせに、ドキってしちゃったよ。見つめあって、私たちは笑いあった。また、いつもみたいに。


「もし付き合ったらどこ行く?」
「まずは…う〜ん、あっ、前てち言ってたラーメン屋がいい。」
「いいね〜、じゃあその後一緒に買い物ね。」


「このたこ焼きおいしい…」
「ほんと?まだ食べてない」
「はいどーぞ。私が買ってきたんだからおいしいに決まってんじゃん。」
「なにそれ、意味分かんない」


「あ、さっきの続きだけどさ、お泊まりしよーね。絶対楽しいよ!」
「いいけど…襲わないでね?」
「な、そんなことしないからっ!」
「思春期だから分かんないよ〜。あー怖いな。」
「ひっどーい。…キスはしたい、けど。」


「そろそろ、終わりだね。」
「うん。そうだね。」
「…もう一回キスしてもいい?」
「…欲張り。」
「ねるが可愛いから、ねるのせい。」


楽しい時間は本当に一瞬だ。
あっという間で、儚い。


「ねる…」
「て、ち…?」

てちがまた、私を抱き締めた。
泣いてる私を、抱き締めてくれた。

「…私、ねるの泣き顔好きじゃないな。ねるには笑顔が一番似合うよ?…なんで、泣いてるの?」
「て、ち…、てち、てち。」
「なに?抱き締めてるの私だから、大丈夫。私はここにいるから。」
「てち…好きだよ、大好きだよ…」
「うん、知ってる。」
「…なま、いき。でも、好き…」
「うん、私も好きだよ。」
「…ずっと、ずっと一緒にいたい。離れたく、ない…」
「絶対離れないよ。私はずっと、ねるのそばにいる。絶対。」
「うぅ…てちぃ…」


背中をポンポン叩きながら抱き締めてくれる君は、私よりも何倍も大人に見えた。
てちが来たら、痛かった心臓の痛みもいつの間にか忘れられていた。

でも、こんなのひど過ぎるよ。


きっともう、明日はてちに会えない。私の体がてちに会わせるために頑張ったって、私に苦情を言ってくる。
だから私は君に、精一杯の愛を伝えたい。


「愛、してるよ、てち。
          
         また明日。」



明日なんて、もうないのに。
私は最後に、君の笑顔が見たくて。


だから、最後の言葉は、「愛してる」って、笑ってあげた。


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