短編小説

□海デート
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「べりー終わった?」
「んんー、まだ?」
「まだ?って、自分のことでしょ…」

私たちは今、うちらの寮の近くにある(って言っても10キロは離れている)海水浴に来ている。
…まあまだ、入ってもないんだけど。
ちなみにべりは今、海の家にある試着室で絶賛試着中である。なので私はその前で待機中。

「べりーまだかー?」
「ん、できたかも…」

今は夏休み期間。つまり学校も休み。せっかく欅のお仕事でも休みがもらえたのでべりをデートに誘った。快く承諾はしてもらったんだけど、どこに行くかでしばらく行き詰まった。
ある日、楽屋でもべりと「どこいく?」「んー分かんない」ってずっとやり取りしてたけどなかなか決まらなくて。とりあえずオダナナにでも聞いてみようと聞いてみたら、「海水浴でも行ってきたら?」と言われたので今に至る。

「開けるよ?」

べりが水着をやっと着たようなので、そーっと試着室のカーテンを開ける。

「どう、かな、似合う?」
「…」
「まなか?」

べりに呼ばれてハッとする。
べりが着たのは、胸のあたりにフリルをあしらったいかにも女の子らしい水着だった。

「…お、おう。超似合うと思うよ。」
「そう、かな?ありがと。」
「うん、うん。」

うん、恥じらう姿も可愛いな…

いや、うちがべりに似合うと思って選らんだ水着だから似合うのは当たり前だと思ってたんだけど、あまりにも可愛い過ぎて絶句してしまった。
私的には、ビキニよりもフリルが付いてる方が清楚感があって、逆にそこにエロさがあると思う。
…別に下心があるわけじゃない。うん、断じて。
オダナナからは「ぺーのこと襲うなよ」って、ここに来る前にラインはきたけど。

とりあえず、やっとの思いで私は海に入ることができた。

「うおーきっもちー!!」

何もしなくても汗をかく真夏真っ只中の八月。私はビキニの上に薄いパーカーを羽織っている。太陽の光が直接当たってジリジリと熱いけど、海の中に入れば一瞬で気持ち良くなる。
しばらく海の気持ちよさに浸ってふとべりの方を見てみると、べりはまだ、海の前で不安そうな顔をして立っていた。

「どうした?入らないの?」
「入りたい、けど…怖い…」

そういえばべり、泳げないんだっけ?
でも入るくらい出来ると思うんだけどな〜。
そう思いながらも私は「大丈夫だよ」ってべりに手をさしのべてあげるあたり、私は相当あまあまだと思う。

べりが「ありがと。」って、さしのべた手に手を重ねた。

でも私は、その手を海の方にではなく、まったく逆方向の人があまりいない方へ引いていった。
もちろんべりは「え、え?」と驚いている。
周りを確認して、私は羽織っていたパーカーをべりに着せた。

「…どうしたの?」
「ん、これでよし。」

べりはずっと不思議そうな顔をしてる。いや、別に大したことないんだけどね。ただ、周りの人の目線がべりに注がれてた気がしたから。
いつもは仕事だし、しょうがないって思うんだけど、さすがに今日は水着だし。そんなに露出度高いと、やっぱり見られたくないって思ってしまった。

「大丈夫だから、ほら。おいで?」
「う、ん。」

本当にやっと、今度はしっかりべりと一緒に海に入る。

「べりってさ、海いつぶりくらい?」
「んーと、五年ぶりくらい、かな?」
「おーそうかそうか。じゃあ私の方が先輩だな。」

どや顔で言ってやる。

「なんで?」

すっごい渋い顔してるんですけど。
面白いなー。

「だってうち、毎年一回は海水浴きてるから」
「え、それで先輩後輩決まるの?」
「うん、そうだよー」

べりは「意味分かんない」って笑った。笑うべりを見て、私も自然に笑顔になる。こうやって笑いあえるのが本当に嬉しいくて、幸せだなって思う。

そんなことやってたら、いつの間にかちょっと深いところまで来てしまっていた。私は特になんともなかったんだけど、べりもそれに気づいたのか、またさっきみたいに不安そうにしている。

「ど、どうしよ…っ!」
「うおっ!?」

べりが焦って体勢をくずし、私に抱きついてきた。
べりはまだ怖いのか、私から離れない。

や、やばい…
普段から抱きつくくらいどうってことないんだけど、今は状況が違う。べりは水着だし、うちも水着。だから肌の感触がもろに伝わってくるわけで。

あー理性が保てない…
それでも頑張って理性と闘う。
…こういうとこ、本当えらいと思うんだけど。

「ま、まなか…!」
「っ!」

必死に思考をずらして理性を保っていたけど、この状況でべりが涙目でこちらを見てきたので、私の必死の抵抗もあっけなく敗れてしまった。

「ごめん、べり。キスしていい?」
「え、なに言って、ん!…」
「もう一回だけ。」

そう言いながら、何回も続ける。我慢できなくて、浅く、深く。
べりがずっと泣きそうな顔をしている。そりゃそうだよなって思うけど、キスを止めるつもりはさらさらなかった。

______________
_________
_____


この後、やっと自我を取り戻して海からあがると、べりは口をきいてくれないくらいに怒ってしまっていた。
私的にはあの状況で「周りを見る」ことが出来た私を褒めてほしかったんだけど。

初めての海デート。私にとっては今年の夏休みで一番の思い出になったのは間違いない。

ただ、わがままを言えるなら、べりにとっても一番の思い出になってて欲しいなって思う。


…ないか。

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