短編小説

□まだしない
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今日はちょっと遠くでの欅の仕事で、私たちはそこのホテルに泊まることになっていた。仕事は順調に進み、予定よりも1時間くらい早く終わった。メンバーみんなでバスに乗り込む。仕事終わりでもう7時になるっていうのに、尾関や平手の騒ぎ声が後ろからきこえてくる。本当にうるさい。
バスの席順は自由なんだけど、まだ私の隣には誰も来ていない。いや、え?来るよね。なんか不安になってきたけど、窓から見えたずーみんを見て、安心した。
 
「おっ、由依の隣あいてんじゃん。座っていい?」
「は?…」

外のずーみんばかりを見ていたら、いつの間にかオダナナが来てて、私の了承を得る前に隣に座ってきた。思わず睨んでしまったんだけど本人はそんなこと知らずになんか浮かれていた。
どかそうと思ったのにずーみんが私に「ゆいぽんお疲れ」って笑顔で言って後ろの方に座りにいったから、何もできなくなった。

「まじ最悪…」
「え、どしたのゆい?元気ないね。」
「お前のせいだよ…」
「えーうっそー、ショックー」

本当、いいやつだけど時々イラっとくるのがオダナナだと思う。

「そういえばさ、由依手伸びてたよ。」
「は?いきなりなんの話?」
「仕事中、ずーみんに。」

ずーみんという言葉を聞いて、思わず固まってしまった。オダナナがバカにしてきたのですぐに意識をはっきりさせる。

「え、うそでしょ。」
「まじまじ。」
「…」
「もう付き合って2ヶ月の恋人でしょ〜、いいだけ抱き合ってるんだから仕事くらい我慢しなよ。」

…こいつ何言ってんの。
抱き合う?そりゃあハグくらいするけどさ

「ハグじゃ足りないし…」
「いやハグって、オブラートに包み過ぎでしょ。」

なんかめっちゃ笑ってるんですけど。いやいや、だから私はもっと先に行きたいから悩んでるわけで、実はね。まさか無意識に手が伸びてたとは思わなかったけど。

「この際言っちゃいなよ〜。で、はじめてはいつだったわけ?」
「いや、そんなの覚えてるわけ…」
「ひっどーい。女の子の大切な“初めて”を覚えてないの?ありえないわぁ。」

オダナナが軽蔑の目でこちらを見てくる。最初はなんのことか分からなかったけど、今までの言動を振り返って、気づいた。

「な、してないし!まだ、してない!」
「え、嘘でしょ?」
「な、なんだよ…」
「え?だって2ヶ月でしょ?由依16だよね。世の中の恋人なんかもうやりまくってんじゃん。」
「うるさいな、私たちは私たちなりの付き合いがあるの。」

なーんてなんとなく上手いこと言ったけど、私的にはそんなことじゃ片付けられない問題だ。話していたらいつの間にかホテルに着いていて、横からの「まなかとぺー1週間くらいだったよ」といういらない情報を聞き流してバスを降りた。ホテルの前でマネージャーが部屋割りの書かれた紙を渡してるらしい。メンバーが一喜一憂しているのがみえる。暗い顔をしているのはカップルの片割れか尾関とかと当たったメンバーだろうな。私も受け取る。頼むからオダナナじゃないように…って祈ってたら、トントンって後ろから誰かに叩かれた。

「ゆいぽん!」
「あ、どうしたの?」
「あれ、まだ見てないの?」

後ろを振り向くとそこには大好きな恋人の姿が。見てみてーってずーみんが言うので見てみると、そこにはまた大好きな恋人の名前があった。

「え、一緒?」
「えへへ、やったねゆいぽん!」
「そう、だね。」

はははって笑ったけど、私の心臓はもう爆発寸前だった。

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部屋までずーみんと一緒に来たけど、私はそれどころじゃなくてあんまり話を聞いてなかった。実は、本当のことを言うと、まだ一緒に「お泊まり」もしたことがない。だからより緊張してる。ずーみんはそんなこと気にしてないっぽいけど。

「ゆいぽん、ゆいぽんっ!」
「ん、ごめん。どうしたの?」
「お風呂先入る?あ、それとも一緒に入る?」

にへっと笑うずーみん。私は思わず咳き込んだ。そういうことを何の躊躇いもなく言うずーみんにとりあえず「じゃあ先入る」って言ってお風呂に入った。今頭冷やさないと、やってけなさそうだったから。

上がってから時間が過ぎるのは早くて、あっという間にずーみんも上がってきた。

「んんーゆいぽーん。」
「ん、ん。ゆいちゃん…」

ずーみんがベッドに座っていた私の隣に座って寄りかかってきた。シャンプーの匂いと若干感じるずーみんの匂いが混ざって、変な気持ちになってくる。
…今日はやばい。なんかもう、色々壊れてきてる。

「ゆいちゃん、キス、いい?」
「え…うん。いいよ?」
「ん、…好きだよ、ゆいちゃん。」
「うん、私も、好きだよ?」

横に並んだまま、軽いキスを何度もする。これだけじゃ足りなくて、まだまだ慣れてない深いキスもする。

「う、ん…ゆい、ぽん。これまだ良く分かんないっ…」
「ん、はっ…好きじゃない?」
「良く分かんない、けど、多分好き。」
「じゃあ、良かった。」

最初はなかなか私のを口内に入れてくれなかったけど、舌でこじ開けてなかば無理矢理に絡ませた。ゆいちゃんはまだ息苦しそうにしてるけど、私はどんどん興奮してきてる。そのまま、ゆいちゃんを後ろのベッドに押し倒した。手を握って、しばらくはずっと舌を絡ませ続けて。でもゆいちゃんが何か言いたそうにしてたから口を離してあげた。

「ゆい、ぽん…!」
「ゆいちゃん。」

私の下で息を荒くして涙目になっているゆいちゃんを見て、我を忘れてがっついていた自分がプレイバックしてきた。

「ご、ごめん!!がっつき過ぎて…」
「え、うん…だいじょぶだよっ!ちょっと。びっくりしただけ。」

あー。すっごいやっちゃた…
ゆいちゃん、不安そうな顔してる。
耐えきれなくて「もう寝よ!」って勝手に提案して、え?って驚いてるゆいちゃんを軽く無視して反対のベッドに倒れ込んでいく。
もう本当、最低な恋人だ…。いいだけ襲っといて、勝手に寝るとか。わかってるんだけど今の私にはこれが精一杯だった。

「ゆいぽん…」
「…」
「ねえ、ゆいぽん。」
「ごめん、ゆいちゃん。明日も仕事だから…」
「ゆいぽん!」

怖い。ゆいちゃんに嫌われたくない。その思いで一杯の私に、ゆいちゃんは私のベッドに入ってきて、私より小さい体で背中からギュッと抱き締めてくれた。

「ゆいぽん、一人で勝手に思い込み過ぎだよ。」
「でも…」
「その、急過ぎて、びっくりしちゃっただけだから」
「ゆいちゃん。」
「私は別に、嫌じゃなかったから…。慣れてなくて、ごめん。」

「嫌じゃなかった」ゆいちゃんからその言葉を聞いて、心の底からほっとした。そのあとごめんと謝ってきたゆいちゃんに、私もいてもたってもいられなくて、抱き締めてくれてるゆいちゃんの方に体を向けて私も抱き締め返す。

「ゆいちゃんが謝る必要なんてないよ。私が、やり過ぎただけだから…」
「ゆいぽん…」
「ごめんね?ゆいちゃん。私、焦り過ぎた。」
「ううん、大丈夫だよ。…ゆいぽんのこと、大好きだから。」
「っ、私も、大好き。愛してる、から。」

二人して笑いあって、またギューって抱き締めあう。
そうだよ、焦っちゃだめだ。こんなにも愛しあってるんだから。ゆいちゃんの心の準備ができてからでいい。ゆっくりゆっくり、私達の距離感でいいんだ。それでもいつかは、ゆいちゃんに触りたいって思うけど。

お休みって言って、ゆいちゃんのおでこに軽くキスして、私達は一緒に寝た。
ゆいちゃんが小さい声で「本当はちょっと、嬉しかった」って呟いたのを聞いて、しばらく寝られなかったけど。



10.21

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