短編小説

□秘密の16歳最後の日
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10月22日、明日は私の誕生日だ。
いつもは誕生日をよく忘れてて、友達におめでとうって言われて気づくことが多かった。
でも今年はそうはいかない。それは、私の恋人ゆいちゃんと一緒に最後の16歳を過ごすことになってるから。数週間前から決めていて、私はそのときからこの日が楽しみでしかたなかった。

それなのに、つい先日。ゆいちゃんにちょうど仕事が入ってしまった。せめて私も一緒だったら良かったのに。そんなこと言えるわけもなく、とりあえず私はゆいちゃんに「頑張ってね」とだけ言っておいた。

ちなみに私は今、自分の部屋のベッドに倒れている。さっきまで携帯ゲームをやってたけどもう飽きてしまった。ゆいちゃんと付き合ってからは、ゆいちゃんで頭の中が一杯で困ってしまう。

「ゆいちゃーん…」

無意識に呼んでしまう。部屋には私一人で特にうるさい音も聞こえないから、自分の声が帰ってくる。

一人で呟くとか、まじはずい…

ため息をつきながら私に飽きられた携帯を手にとって時間を確認する。
まだ三時かよ…ゆいちゃんが来るのは五時だからあと二時間もある。
あー長い。私が昨日(楽しみすぎて)寝られなかったからか、今ごろになって眠気が襲ってきた。
二時間もあるし、ちょっとくらい大丈夫かな。そう思って、私は目を閉じた。

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________
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ん、天井が見える…。窓からは光がもう入ってきてなくて、電気をつけてない部屋は暗くなっていた。
時間を確かめる。

pm.4.50

「…十分前じゃん!?」

やっばい。いそいで布団をはがしベッドから飛び起きる。よく見たら新着メッセージがきてて、ゆいちゃんから「今終わったよ〜ゆいぽんの家に向かうね」というものだった。
文面から伝わってくる可愛さに感心しながら、このメッセージが送られてきたのが今から五分前だからあと十五分くらいか、と冷静になってきた頭を使って導きだした。

はぁ、良かった…と思ってたら、ピンポーンと家のインターホンが鳴った。めんどくさっと思いながらもちゃんとでてあげる。えらいえらい。

「どちら様でしょうか?」
「ゆいぽんおはよ〜やっと来れたよー」
「…」
「あれ?どうしたの?」

寝過ぎたかも。ちょっとまだ寝ぼけてるな。多分宅配のおばさんだと思うんだけどゆいちゃんに見えた。

「あ、はい。荷物ですよね。すいません。」
「え、ゆいぽん?どうしたの?」
「あーすいません、今ちょっと寝ぼけてて…」
「ゆいぽん!」
「…え、本物?」
「当たり前だよー。ほら、小林さんの恋人の今泉ですよー」
「ゆいちゃん、なんでここにいるの?」
「なんでってゆいぽんの誕生日だから」

なるほど、本物なのか。意外と早く受け入れられた。これも寝ぼけてたおかげかも。
じゃあなんでこんなに早いの?私が珍しく頭を働かせたのに、間違ってたのかな。

「ゆいぽんに早く会いたいから急いできたの!」
「あ、そうなの?別に無理しなくても良かったのに」
「いーの、ゆいぽんが一番だから。」

かっわ…こんな子の一番とかまじ幸せ。そう思いながら現実を受け入れてゆいちゃんを家にいれた。

「ねーゆいぽん、ご両親はどうしたの?」
「ちょっと旅行中。」
「え、行かなくてよかったの?」
「私もゆいちゃんが一番だから、大丈夫。」

というか、二人きりになれるから好都合。ゆいちゃんは「ありがと」ってちょっと照れてる。

「ゆいちゃんお風呂入る?沸かしてるけど」
「うん入るー。ちょっと疲れたから」
「じゃあ私、カレー作ってるね」
「んー、なんか、ゆいぽんの誕生日なのに私の方がもてなされてる気がする…」
「ふふっ、大丈夫だよ。だって、誕生日プレゼント、くれるんでしょ?」
「うんっ!じゃあ行ってくるね」

今日は夜ご飯も一緒に食べる。それでもってゆいちゃんは泊まってくれる。どっちも料理は得意じゃないから簡単なカレーで済ませることにしていた。
「誕生日プレゼント」っていうのは私が勝手に期待してるんじゃなくて、前々からゆいちゃんが準備してたらしく、いっつも「期待しててね」って言ってたから。

カレーがもう少しで完成しそうな頃、ちょうどゆいちゃんが上がってきた。

「お風呂ありがとお、気持ちかった。…ん!いい匂い!できたの?」
「もうそろそろで。あと煮るだけだから。」
「やった〜、待ってる!」

そう言ってゆいちゃんはソファーに座ってニコニコしてる。髪、乾かさないのかな?

「ゆいちゃん、ドライヤーは?」
「え、あそっか。貸してもらってもいいかな?」
「うん、そっちの洗面所にあるから勝手に使っていいよ」
「はーい」

お風呂上がりだからいつも以上にヘニョヘニョしてる、可愛い。

ドライヤーの音が消えたのと同時にカレーも完成した。テーブルに並べるのをゆいちゃんに手伝ってもらって、夜ご飯を食べる準備が出来た。

「「いただきます」」

「ん!おいしい〜!!」
「ほんと?安心した」
「ゆいぽん料理もできるんだね、すごい。」
「ゆいちゃんができなさ過ぎるんだよ」
「ひどーい!」

正直ゆいちゃんの料理は食べたくないな、お腹壊しそうだし。
二人で色々話して、笑い合いながらご飯を食べ進める。話してたら分かったことだけど、ライン送ったのは仕事が終わって十分後ぐらいだったらしい。そりゃあ、計算が合わないわけだ。

うん、好きな人と一緒に食べるご飯って、特別な味がする。
今度は一緒にご馳走さまでしたって言って、食器を片付ける。

「あ、そーだ!ケーキ買ってきたんだった!」
「え、そうなの?別にいらないのに」
「だめだよー。ケーキ食べなきゃ誕生日って感じしないじゃん!」
「そうかな?」
「うん、そうだよ?冷えてないけど今食べる?」
「んーじゃあ後で食べる。ちょっとゆっくりしよう?こっちおいで。」
「うん行くー。」

今はお腹一杯なのでケーキは後にして冷蔵庫に入れた。
ソファーに座って、その下にゆいちゃんを座らせてテレビを見る。
後ろ姿だけだとちょっと物足りなかったから、ゆいちゃんの頭を撫でてあげる。

「えへへ、ゆいぽんが撫でてくれると気持ちー。」
「そうなの?」
「うん。なんかね、大事にしてるって感じがするの。」
「まあ、大事にはしてるけど…」
「あっ、誕生日プレゼント!」

ちょっと恥ずかしくて、結構勇気出して言ったつもりだったんだけど私への誕生日プレゼントに遮られた。

「本当はケーキ食べてからにしたかったんだけど、今渡しても大丈夫?」
「うん。私も気になるし。」

そう言うとゆいちゃんは自分のバッグを取りに立ち上がって行った。
ちょっと寂しくなったけどすぐ戻ってきて、ゆいちゃんは私にブレスレッドを差し出した。

「これ…ブレスレッドだよね?」
「うん、どうかな?ちょっと安物だけど、“yui”って名前も入れてもらったんだ。」
「ゆいちゃん…」
「ほらっ、ドラマでお揃いのやつあったけど私たちないから、いいなって思って。そうだ、実はお揃いで…」

ゆいちゃんは自信が無いのか下を向いて顔を赤くしてる。
本当に、私の恋人はなんでこうも可愛いんだろ。私が嫌がるわけないのに。渡す前まではすごい自信があったのを思い出して、ずっと考えてくれてたんだって気づく。だから私は縮こまってる彼女を抱きしめて、また頭を撫でてあげた。

「ゆい、ぽん…?」
「嬉しくないわけないよ。すっごい嬉しい。」
「ほんと?」
「うん。ゆいちゃんとお揃いなんて、私にはもったいないくらいだよ。」
「良かった…!」
「毎日付けてくね。」

そう言ってあげると腕の中でも分かるくらい喜んでる彼女に、私は体を離しておでこに軽くキスをした。さっきとは違う意味で赤くなってるゆいちゃんに「いい?」って聞いたら小さく頷いたから唇にもキスを落とした。

「ん、ゆいぽん…」
「好きだよ、ゆいちゃん。」

何度もキスを重ねる。けど、ケーキがあるのを思い出して一旦止めた。

「ん、ごめん…ケーキ食べる前なのに…」
「もうっ、そうだよ〜。ケーキ、ケーキ!」

ゆいちゃんは一瞬顔を真っ赤にしたけど気にしないことにする。
どうせまた、後でするし。

「…もしかしてゆいちゃん食べたいだけなんじゃないの?」
「え!?違うよ〜ちゃんとゆいぽんのためだもん」

そんなやり取りをしながらケーキを取り出す。ゆいちゃんが買ってきてくれたのはメジャーなショートケーキ。ゆいちゃんの分も同じだと思ったけど、ゆいちゃんのはチョコケーキだった。本当に食べたかったんだな…言おうかなって思ったけど、すっごい笑顔で食べてるからまあいっか。

「ゆいぽんこっち食べる?」
「あー、うん。もらおっかな。」
「はい、あーん」

向かいの席に座るゆいちゃんが身を乗り出してあーんしてきた。もちろん食べたけどすっごいおいしかった。本当はそんな好きじゃないんだけど、あーんの威力ははんぱないんだな。私のもあげた。でもあーんする前にぱくってすぐ食べてしまったけど。そういうところがすごい可愛いくて私は好きだけど。食べおわって切なそうにしてるゆいちゃんを見たら、なんだか本当に私の誕生日じゃない気がしてきた。
いや、「可愛いゆいちゃん」っていうプレゼントか。
でもやっぱり、ちょっと足りないかも。さっきキスしちゃったから、より。
…誕生日なんだから、わがまま言ってもいいよね?

「ゆいちゃん、私の部屋いこ」
「うん、いいよ?」

あたかもなんにもないですよーみたいな顔で言う。騙されないゆいちゃんって本当純粋だな。
ベッドに腰かけて、「なにする?」って無邪気に聞いてきたゆいちゃんにキスをする。ケーキの味が残ってていつも以上に甘い。

「んん、ゆいぽん…?」
「しちゃ、だめだった?」
「いや、そういうわけじゃないけど」
「じゃあいいよね?」

そのままキスを重ねて柔らかくベッドに倒す。

「え、ちょ、と待って」
「どうしたの?」

首にキスしながら問いかける。

「ゆいぽん、の誕生日、祝えな、く、なっちゃうよ…」
「大丈夫だよ。だから最後は私に、“ゆいちゃん”をちょうだい?」

ゆいちゃんは「ずるい」って言いながらも私に体を預けてくれた。
最後の16歳。大好きな人と一緒にいれて、いっぱい愛せて、ずっと幸せを感じれた一日だった。


ゆいちゃんからもらったブレスレッドは次の日から、言ったとおりに毎日付けていった。ゆいちゃんのやつが揺れると嬉しくなって、ゆいちゃんを見ながらブレスレッドにキスしてあげると、ゆいちゃんが顔を赤くしてそっぽを向くのが楽しくて、またそれが幸せだった。

それをメンバーに気付かれて怪しまれたからちょっと焦った。みんながいる楽屋でやったらそりゃばれるよね。
ま、なにを言われても絶対教えてあげないけど。

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