短編小説(その他)
□橋西
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「っ!…あぁ切ってもうたぁ…」
紙って意外と切れるってよく言う。
うちは今まんまと油断して指を紙で切ってしまった。
なんていうか、負けた気分。
こんな薄っぺらいただのA4サイズの紙にうちの血を流させるなんて、むかつく。
「七瀬。」
「ななみん。」
「なにやってるの?変な顔して。」
気って血が出た指を弱いやつやな〜と眺めていると後ろから大好きな人に声をかけられた。
ななみんは私を見て笑いながら隣の空いてる椅子に座った。そんで頬杖をついて、うちやなくて、血が出た私の指を見る。
「…」
「紙でやっちゃたのか…意外と痛いんだよね、紙って。」
なんて、うち的にはいらない情報をまたふふっと笑いながら言う彼女は好きだけれども、隣にきたんならうちの指なんかじゃなくて彼女であるうちを見てほしい。
そんな想いはななみんに届くはずもなく、うちはずっとななみんを見つめているのにそれに気付いてくれない。
さっきは紙に勝手に負けたって思ったけど、今度は切ってしまった自分の指に負けたって気がしてくる。
そんな気持ちでななみんを見ていたら、ななみんが何かを思いついたように目を一瞬ぱぁっと開けて口角も上げた。
そんで、見つめていたうちの指を手でつかんだ。
「んぅ!?」
「ん…ん〜、やっぱ七瀬でも血の味っておんなじなんだね。」
「いきなりなにしてんねん…」
「え?七瀬の血の味チェック?」
「意味わからん。」
「うん。私も。」
「もっと意味わからん…」
「あはは、だよね。」
「え、ちょっとななみん…」
うちの指を勝手に舐めて、求めてもいない血の味の感想を言われ、意味不明な理由を言ってななみんはそのままどっかに行ってしまった。
人の指、あんな簡単に舐めれるが意味わからへん。
ていうかななみんが意味わからへん。
ななみんはいたって普通の顔をしていたけど、うちは心臓が飛び跳ねそうだったのに…
結局最後はなんだか、ななみんにも負けた気分。
「…次は負けへんし…」
何で戦っているのかは、うちにも分からへんけど。
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