短編小説(その他)

□突然も幸運に?
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「ぽん〜そろそろ休憩だって。」
「織田。おっけ。教えてくれてありがと。」
「じゃあ代わりにお写真を一枚…」
「代わりのが意味分かんないし…却下。」
「けちだなーでも可愛い。」
「早くあっちいけばいいのに…」
「今のは聞き流して…あ、乃木坂さんたちも来てるからもし会ったら挨拶しなよ、ちゃんと。」
「はいはい…」


っていうか今最後、「ちゃんと」って言った?
それってつまり挨拶もできない問題児として織田は私を見てるってこと…?振り返ってみてイラついたから文句言おうと思って織田の行く先を見たけどもういなかったから諦めた。
絶対挨拶ちゃんとしてやるからな。
…ってこれじゃあ、いつもやってないみたいじゃん…



休憩室向かう途中でメンバーに「なに頭抱えてんの」って変な目向けられたからさっきのことを忘れることにした。



乃木坂さん…
何回かはお会いしたことはあるけどまだちゃんと話す機会なかったな。
インタビューとかあると、結成当初の頃とかはよく「尊敬する先輩は誰ですか?」って聞かれた気がする。私は確か、齋藤飛鳥さん、って言ってたかな。
でも正直、「憧れ」って言われると、私は「西野七瀬」さんなんだよね。

いや、ただたんに可愛いと思うだけかな。
なんか、あのあんまりはきはきしてない感じとかが私的にはツボなんだよね。




今日のブログ、西野さんのことでも書こうかな…



そう思い、なんでか考えてる内に自動販売機で買ってしまいガランと音をたてて出てきたお茶を溜息をつきながら手にとった。
そして、もう一度休憩室に向かおうとその方向を見たとき。




「っ!」



奥の方に見えた、何度か見たことのある人の姿。


西野さんだ。


やばい。ちゃんと挨拶ぐらいできるしって心の中では思ってたたけど、いざこの場面に直面したらなんか言える気がしなくなってきた。
そう思っている内にも、西野さんと私の距離はどんどん縮まっていく。


ばくばくばく…


心臓がうるさくなる。


あーもう。学校の先輩に挨拶するようなもんだって…


そのとき、空耳のように、私の頭に織田の声が聴こえた。




『由依って意気地なしだよね〜』



という、私を嘲笑う声が。



織田め…舐めないでほしい。
いくらコミュ障の私だって、先輩に挨拶ぐらいできるし。



そう私は決心した。



「っ、西野さん!」
「!」
「お、おおお疲れ様です!」
「…」


しまった。とてつもなく噛んでしまった。
恥ずかしすぎて西野さんから目を逸らす。


「…」
「…」


西野さんが今どんな顔してるかは分からない。
ただ、なんで返事が返ってこないのか。
もしかして、挨拶したつもりになっただけで実際は何も言ってなくてただ西野さんの前で顔を赤くして目を逸らしてるだけ…?


もしもそうだったら、違う意味で恥ずかしすぎる。
私は咄嗟に確認のために西野さんの方を向いた。



「っ!?」
「あは。やっとこっち向いてくれたぁ」


西野さんの発言から、私はちゃんと挨拶できたんだってことが分かった。ただ、今のこの状況。西野さんは私が顔を向きなおしたらにこっと微笑んで、ぴょんって飛んで、私を至近距離で見つめてきている。
なにこの人、可愛すぎ…


じゃなくて。とりあえず、また違う意味で顔が赤くなってしまったから、早くここから逃げ出そう。挨拶はできたんだし。


「それじゃあ」そう言って、歩き出そうとした。
でも私の足は、誰かに掴まれた腕によって止まってしまった。


誰かって、この場にいて、私の腕を掴める人なんて…






「由依ちゃん。こっち来て?」





西野さんしか、いないですよね。









_________________________






なにがあったかはよく覚えてない。
それは可愛すぎた西野さんのせいか、それとも動揺しすぎた私のせいか。
いやはや、西野さんに挨拶をしてしまった私のせいか…


でも今私がいる場所は、絶対におかしいわけで。挨拶さえしなければ来ることはなかった場所で。


ていうか、本当におかしい。




「なぁちゃんさ…その子欅の子だよね?」
「そうやで。」
「えっと…なんで連れてきちゃったかな〜?」



白石さん、正論です。
そんなことは言える状況ではないけれど、盛大にそう言いたい。


だって、私が今置かれている状況は、欅の尊敬する先輩の乃木坂さんたちの休憩室なわけで、つまり私は今その何十人もの先輩のなかに一人後輩が混ざっているわけです。


正直、吐きそう。



「ななの恋人やから。」
「…え、なんて?」
「ななの、こ・い・び・とー!」
「「「えぇ〜〜〜!?」」」
「…え?」
「なぁー由依。」
「いや、えっと…そう、でしたっけ?」
「そうやん。忘れたん?」
「いや…忘れた、かもしれません…?」
「じゃあ思い出させてあげる。」



頭の中がスクランブル状態な私を、西野さんは殺しにきたのかもしれない。



「んっ」
「…ちゅーじゃ、思い出せへん?」



私のファーストキスは、実にあっけなく奪われてしまった。













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