Monster Hunter Original Story

□氷山龍ドルフロス
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01




『ミライ!行くよ!』

懐かしいその声は、俺の手を強引に引っ張り、駆けてゆく。

だだっ広い草原を、ただひたすら、駆けてゆく。

何度足がもつれただろうか。
何度躓いただろうか。

足の感覚がなくなるほどに、俺は大草原を駆け回る。

息が切れ、心臓の鼓動は段々と速くなる。

呼吸が苦しくなるにつれ、頭の中はより一層ぼうっとする。

『もう少し…!』

俺の手を引っ張る彼女も、いくらか苦しそうではあるが、どこか余裕を隠し持っているかのような無邪気な笑顔を浮かべる。

もう少し──こんな見渡す限り緑の大草原の果てに、一体何があるのだろうか。

もう少し、あと少し──そんな言葉を聞くたびに俺の心はズキンと痛む。
何故だろうか──分からないけれど、痛むのだ。

…いや、分かっているのか。

あと少し、もう少し。

その言葉がまるっきり嘘だということを、俺は分かっていた。

どれだけ走っても、どれだけ躓いたって、辿り着かないのだ。

この呼吸が止まったって、一生かけても辿り着かない。もう、二度と辿り着かないのだ。


だからこそ、あと少し、もう少しという言葉が強く心に響く。

終わらない旅を、無理矢理続けさせられているようで。
ゴールの見えないマラソンを、走り続けているようで。

彼女はひたすら、俺に『あと少し』『もう少し』と声を掛け、無邪気に笑うのだ。

無理だ。辿り着かない。

きみに手を引っ張られている限りは、辿り着かないのだ。

見ることの出来ない景色を探して、辿り着くはずのない場所を目指して、ひたすら走り続けていくことの辛さ、虚しさ──そういうゴチャゴチャしたものが一斉に俺にのしかかってくる。


『もうすぐ、着くから』

いや、そんなはずない。

『ほら、もう、すぐそこだよ』

俺には見えない。すぐそこにあるはずの景色は、ただの一面の緑のみだ。

『なんで、ミライはそんな悲しそうな顔をするの?』


ようやく立ち止まり、振り返った彼女は泣きそうな顔で俺を見やる。

『なんでミライは、見えないの…?』

そんな問いかけに、俺は、一体何度目か分からぬ返答を、一言一句間違えることなく彼女に言った。



『これは、夢なんだ。悪夢なんだ。だってきみはもう──』



この世にはいないんだから。








目が覚めると、眼前には見慣れた景色が広がる。
俺の生活拠点、クレナ村の南東に位置する小さな小屋のちょっぴり硬めのベッドの上だった。

またこの夢か。

何度となく見たあの夢を、今日もまた忘れるために俺は剣を取った。
自分の身長ほどはあるであろう大きな剣を携え、家を出る。

天には未だ月が登っていて、恐らく日が明けるまでまだ数時間は残っていそうだった。

ああ、また眠れなかった。最後に熟睡できたのは何年前だろうか──そんな過渡を考えながら、俺は村を出た。

目の前に広がるのはあの一面の大草原──ではなく、荒れ果てた大地のみだった。

真っ暗闇に、冷たい風が吹く。

一、二、、全部で四か。
気配で俺は荒れ果てた大地で丸くなっている狗竜の数を予測する。

ゆっくりと時間が流れる。

やがて、俺の存在に気付き、目を覚ました化け物たちは、唸り声をあげながら一斉に飛びかかってくきた。

『もう少し、あと少し』

そんな彼女の言葉を、忘れるために。

今日もまた、俺は剣を振るい続けた。


きみのいない世界に、一刻でも早く慣れるために──。

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