cat the ripper

□いのちをひとつくださいな
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「猫ちゃん、ついたよー」




俺らの事務所兼自宅のガレージに入れて、おっつんがギアを戻しながら後ろの猫ちゃんに伝える。
今回、依頼されたターゲット。
依頼人から話しは聞いてたが、本当に獣人だったとはな。
そん時は冗談半分で、またまた...ゲームやアニメじゃあるまいし。なんて思っていたほどだ。
隣で話を聞いてた弟は、それはそれは輝いた瞳をしていましたよ。
「うわぁ〜っはやく会ってみたい!兄者!早く早く!」
なんて。ったく、おまえいくつだよ。



それはまぁ、本当だったんだが。



黒い猫の耳に黒い尻尾。
黒い髪に褐色の肌。
そして紫の瞳。
まず人間じゃないな、と。



部屋のドアを開けて呆然とした。
今まで色んな奴を見てきたが、今回は驚いた。
人間じゃなかったんだから。
ゲームやアニメで見るような姿が現実にいたのだから。
カルテを入手しても半信半疑だったのが確信に変わった。



依頼人への受け渡しは1か月後。
それまでこの猫ちゃんを招き入れる準備をするんだってさ。猫だけに?はは。
本当にあんのかよそんなところ。
政府や裏の連中に見つかったら即売られんぞ。
ある一部の性癖持ちの紳士に見られたらそれこそ大変だわ。



まぁ、俺にはどうでもいいが。金さえ入れば。




さっきまで飴を舐めて静かになってた猫ちゃんが、おっつんの声に反応しない。
二人して後ろを見ると、なんとも微笑ましい状況になっていた。
いつの間にか、二人ともぐっすりと眠っていたのだ。
弟者は背もたれに大きな体を預けて、顎が上がってるにも関わらず熟睡してるし、
猫ちゃんはそんな弟者のスーツの膝に頭を預けて眠ってしまっている。
所謂膝枕である。
舐めていた飴は、全て舐め終わったのかただの棒となりティッシュにくるまれて弟者が持っていた。


まるで兄と妹だな。


おっつんがそんな二人を見て吹き出しながら俺に言った。
だな。
とだけ返して、助手席から出る。
弟者側のドアを静かに開けると、起こすために広いデコを軽くつついた。



「おい、起きろ。着いたぞ」

「...んぁ?おうち?」

「おうち、て...。お前いくつだよ」

「猫ちゃーん...着いたってぇ...」



ここが家のガレージだということを認識した弟者が、
眠い頭で膝にいる猫ちゃんを起こそうと手を出そうとするが、俺はそれを止めた。
よく眠っているからだ。
多分これまで気が緩むことがなかったんだろう。



「いいよ起こさないで。それよりお前は荷物部屋に運んどいてくれ。
俺はこの猫ちゃんが休める場所に運ぶから。」

「......この家にちゃんと寝れるとこあったっけ?」

「少なくともお前の部屋よりかは寝れるとこたくさんあるわ」

「なんだよそれー!」

「はいはい、ふたりともうるさくしない。チャキチャキ片付ける」



うぐぐ、と弟者が呻く。
よいしょ。俺は弟者から猫ちゃんを静かに受け取り、姫抱きにする。
こんな俺はまさに姫を救う勇者なんじゃないだろうか。そんな姿だろう。
とすると弟者は魔王かなにかだろう。いや、下っ端の下級魔物か。


おっつんが、「じゃあ、おれは飯の用意してくるね」と足早に自宅の中へ向かった。
弟者もブツブツまだ文句いいながら武器やアタッシュケースを担いで中へ入っていく。


車に鍵を掛けて俺も向かった。
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