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□NARUTOの世界で成り代わり
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目が覚めたら別世界、なんてよくある話? なのか。私は断固否定派だ。だってあり得ないもの。でも今回の件についてはありということで…お願いします。
でも、私の場合はある時ふっと気がついた。というほうが正しい。それまでは普通に生活して、これが当たり前だと思っていた。中身も外見も子供ですが、何か? とドヤ顔で言えちゃうんだぜ。が、ある時私はへまをした。
子供に有りがちな注意散漫。何をしたかったのか木に登って、手を離したら落ちた。なぜ手を離すんだ、バカ者! と今なら思う。でもそこからだ。気がついたら、今までの私以外の「私」の意識がはっきりと鮮明に思い出されたのだ。あぁ、思い出したくない黒歴史もばっちりな! そして思うわけだ。なんと言うことだ…手がちっちぇ! 足もちっちぇ! というか、顔が違う。私は誰だ。この可愛い子、誰ですか?よーく考えろ。拐っちまったの? いや、この子が私で私がこの子で…ワケわかんないよ!
「おかーしゃ…」
 なんと舌っ足らず。お母さん、と呼びたかった。否、叫びたかった。私の最終手段! いつも迷惑かけてごめんなさい。しかし現れた「お母さん」は私がびっくりするほど別人で愕然とした。顎が落ちてそのまま戻らないんじゃないかと思った。目玉なんか飛び出しすぎて壁にめり込んだんじゃないかと。びっくりし過ぎて固まる私。しかし目の前の「お母さん」は何事もないようにひょいと抱き上げて言った。
「どうしたの、テマリ」
「テマリ…」
 誰ですか、それ?

 一

 あの日から何事もなく何年か経った。いや、何かはあったんだけど考えるのも面倒なので。あと、弟が出来た。…二人も。お母さんが最初の弟が出来た時に「兄弟出来るわよ」宣言をされたときは、いらねーし!別に兄弟とかいらん。前の自分の黒い過去はほぼ自分の兄弟が原因だ! と思いながら世界が澱みそうなくらい深い溜め息をついたのを覚えてる。名前、カンクロウ。最近は不気味なお人形を相手に「じゃんじゃん」言ってる。そんなんじゃモテねーぞと言ったらしばらく人形もじゃんがじゃんがも止めたが最近パワーアップして帰還した。意味無いじゃん!
 二人目。我愛羅。お母さんは何でこんな中2ちっくな名前を付けたんだろう。しかもそのまま何の推敲もせずにお空に旅立ってしまった。というか、兄弟なのにあいつもこいつも全然似てない。似なさすぎて笑ったもんだ。しかも末っ子は腹に化け物を飼ってるとかで寝れないらしい。しかも母ちゃんが死んだのを自分のせいってみんなが苛めんの。私にはデロデロでべろんべろんだった父ちゃんでさえ我愛羅には厳しい。なんだか不憫な子。しかも末っ子だけ一人で離れに住んでるとかだ。だから実際あんまり会ったことない。えー…独り暮らしとか羨ましい。我愛羅の家を私のと交換してくれというつもりで父ちゃんに一回抗議しに言ったら殴られた。
おまっ…!やりやがったな!とか色々思ったが逆らうのを止めた。面倒なので私から離れに行くことにした。
その当時夜叉丸とか言う母ちゃんの弟が世話しに行ってたから私も行けるべ、という軽いノリだった。でもカンクロウに言ったら反対された。「行っちゃ嫌だー!」と。こんな姉さんでも一応好かれてるらしい。



 ある程度荷物を持って私は離れに向かった。何回かカンクロウにじゃんじゃん言われながら制止を食らったがあの部屋は小さくて嫌なんだよ。大人になるんだカンクロウよ。一人で瞑想したいときだって有るんだ。
離れに着くと夜叉丸という人がいた。母ちゃんの弟かぁ…似てねーな! 私を見るとびっくりしていた。心外だ。
「て、テマリ様! 一体どうしたんですか?」
そんな大荷物で、と更に続ける。私は何事もないように言った。
「ここに住むの。よろしく頼むぞ」
ポカーンと口を開けている夜叉丸を無視して私は玄関から堂々とお邪魔した。というより我が家の一角なんだから邪魔するという表現はおかしいな。入った? 離れと言っても結構な広さだ。にも拘らず、整理されてる。
「夜叉丸はマメだな。部屋がピカピカだ。私は我愛羅の部屋の隣にでも住むよ。案内して」
「え、はい!」
彼は素早く動くと案内してくれた。その間、どうしてここに来たの? とか、父ちゃんに許しはもらったの? とか聞かれたから「人間独りになりたいときだってあるだろ…」と言ったら何を思ったのか泣きながら私を抱き締めた。変態か? 訳は聞かなかったけど。
「それじゃ、俺はこれで」
夜叉丸が去っていったので私は持って来た荷物をぶちまけて適当に整理した。独り暮らしとか快適すぎる。この期待をどうしたらいいんだろう。そのまま大声で高笑いしたら、後ろから気配がした。振り向くと赤い髪の毛、緑の目、そのしたに凄い隈をした少年というより幼児がいた。お前、もしかして、もしかしてしなくても私の弟か? 隈は微妙だが、前の兄弟よりも今のカンクロウよりもあれだ、なんというか…
「可愛いな、お前」


なんというか、分福茶釜の狸のようで可愛いし。びくびくしてこっち見てくるのとか、私が関わった前の兄弟より可愛げもあるし?カンクロウも可愛いけど「じゃんじゃん」うるさいからな…ということでこいつが一番可愛い。初めてまじまじ見たけど。いつまでも部屋の入り口で突っ立ってるから呼んだ。私が姉ちゃんって分かるかなぁ…むしろこいつが生まれた時にちょっととたまにしか見かけないから分かんないかなぁ。右手にはお菓子。左手には漫画本。勉強? この年齢の勉強なんてしなくても大したことない。それ以前に一回大人やった子供舐めんなよ! それは良いんだ。我愛羅よ、来たれ。
「食べる? あんた我愛羅だよね」
「テマリ」
「うん、姉ちゃんって言え。ま、良いけど」
そしてボリボリとポテチを食べる。ポテチを頬張る時でさえ私を気にするから「遠慮するな」と言うと更に一口。それに私の読んでる漫画も気になるようだ。
「読む?」と聞くとコクンと頷く。…可愛い。
「一巻から読むと良いよ。手は拭け。油でベタベタになるから。…あぁ、服では拭くな。布巾があるだろ」
そして素直に頷く。やっぱり可愛い。我愛羅は私の横で差し出された漫画を読んでいる。でも漢字が読めないのか隣からこれは? あれは? と聞いてくる。これじゃ私は集中出来ん。この際、我愛羅のお勉強の手伝いのつもりで付き合う。頭よくなれよ、弟よ。
「テマリ、楽しいな」
「そうか? 良かったな」
 その後、夜叉丸が様子を見に来てくれた。驚き過ぎて顎が外れかけている。さすが私のおじさんに当たる人。私のときの反応とそっくりだった。



 夜にはすっかりなつかれた。ご飯も一緒だ。箸の使い方がなっていないから教えた。スプーンは卒業させよう。風呂も何故か一緒。いや、このつるぺったんが気に入ったならそれは良いけど夜叉丸まで一緒にと指定された時は全力で拒否した。泣きそうな顔してもダメ。私は女、彼は男、君はなぜ良いかと言うと兄弟だからだ。そう説明すると渋々頷く。それでも腑に落ちないと言った顔だ。だったら一人で入らせてくれ。でもそう言うと腕を離してくれない。…カンクロウそっくり。寝るときだってもちろん一緒だ。でも我愛羅は寝れない体だって知ってる。寝てる間に化け物に体を乗っ取られてしまうって我愛羅が話してくれた。
「だから夜は辛い。夜叉丸だって帰っちゃうから」
「へぇ」
「テマリは来た。何で? 俺が怖くないの」
「そりゃあね…。でもあんたはあんただし。怖いのは腹の化け物であって我愛羅じゃないよ」
「そうかな」
「そうさ。そんなこと言ったら私は来てないだろ。あぁ、眠い。寝れないのは辛いや。あんたは偉いよ」
よーしよしと髪を撫でてやるとくすぐったそうに我愛羅は身を離した。なんだ、失礼だな。構わないでおくと今度は向こうから引っ付いてきた。
「テマリ、テマリ…?」
ねぇねぇと甘えてくる我愛羅。うるさい。うるさいから動けないようにぎゅーと力いっぱい抱き締める。ガキの力なんて大したこと無いんだけど我愛羅は「きゃあ!」と楽しそうな悲鳴を上げて大人しくなった。
「テマリ、好き。好きだ」
「そうか…私も好きだよ」
「明日も遊ぼうね」
「うん。あんたも寝な。目閉じてるだけでも違うよ…」
「わかった」
私はそれを聞いてから構わず寝た。あぁ、久しぶりに疲れた。



 次の日、我愛羅と夜叉丸と一緒にご飯を食べているといきなり玄関を叩く音がした。なんだなんだと夜叉丸が覗くと、そこには父ちゃんとカンクロウがいた。その声も聞こえる。きっとカンクロウがチクったな。私は我愛羅に出てくるなよと一言置いて玄関に向かう。父ちゃんの声がした。
「テマリを出せ。化け物と一緒にいるなど何を考えている」
「しかしお兄さん、兄弟が仲良くしているだけですよ」
「黙れ、これは風影として命じているのだ」
バチーン、ガシャーン。あーぁ…子供が見てる前でそんな吹っ飛ぶくらい人をぶん殴るなんて。ねぇ? つい飛び出しちまったじゃないか。
「夜叉丸、大丈夫か?」 「テマリ様、」
「なんてことをするんですか」
「貴様こそ何をしているんだ」
バチーン! と頬を殴られた。痛い。介抱したらこれって人助けしたくなくなるぞ。あぁ、我愛羅までついに飛び出してきた。父ちゃんは今にも射殺しそうな目で見ている。
「テマリに触るな!」
「化け物め、これはお前のせいでもあるんだぞ」
「僕が悪いなら僕を殴り殺せばいいだろう! テマリは悪くない!」
「忌々しい…よもやこんな者が息子とは腹立たしい」
「違う! 化け物にしたのはあんただ! 僕は知ってるんだぞ、僕が死ねば化け物は外に出る、だから怖くて手が出せないんだろう!」
「黙れ! 化け物め!」
そして我愛羅にまで手をあげた。あぁ、嫌な親。お母さんが生きてたらそんな態度は絶対に取らないくせに。ムカつく、ムカつく。
「あんたなんか死んじゃえ」
気がつけば勝手に言葉が出ていた。




 呆気に取られる周り。もう嫌だ。こんなの。私は我愛羅の手を引いた。夜叉丸はきっと大丈夫。けど我愛羅は大丈夫じゃない。きっとここにいたらいっぱい殴られながら罵られるんだ。いっぱい走った。息が切れるくらい走った。私の弟は泣いていた。涙と鼻水でぐちゃぐちゃで、正直汚かったけどそんなのどうでもいい。この地域には水源が少ない。洗える場所もない。人の目が行き届かない場所まで来ると、私も一緒に泣いた。いっぱい抱き締めた。
「泣くな、我愛羅! 男なんだから」
「だって、だって…!」
「大丈夫。守ってあげる。守ってあげるからね…」
打たれた頬より心が痛かった。あんな言葉が親から出ていいのか?そんなのあって良いわけないだろう。でも、それよりも、「何で砂で自分を守らなかった」という事を聞きたかった。すると、我愛羅は「砂で守ると父さんの手が痛い」と答えた。私はびっくりした。彼は怒ってはいても憎んではいないのだ。…それなのに。
「庇えなくて、守れなくてごめんね」
「…テマリ」
あぁ、この世界には忍術がある。それを極めよう。そしてこの優しい化け物のための世界を作ってあげよう。私は小さな弟を抱き締めて誓った。
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