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□魑魅魍魎の息子たち
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この日、旅人風の男が里の親父に言った。
酷く焦っているようで、所々聞き取れない。
笑顔の親父が聞き返す。

「さっき山に天狗が表れたんだ!」
「ああ、そうか」
「嘘じゃない! 本当だ!」
「おお、本当だろうよ」
「信じてないだろ、あんた!」
「信じてないなんて言ってないだろ、兄さん」

旅人の台詞にムッときた親父は眉間にシワを寄せた。
すると、いきなり首がぐるんと回転したと思うと、今度は鬼のような形相になった。
満面入れ墨のような紋様が刻まれ、恐ろしさに拍車がかかる。
旅人が叫んだ。

「ひぃぃ! 化け物〜!」
「化け物とは失礼な人だ。ここは月本国、あやかしの国なんだ。妖怪がいて当たり前だろう」

絶叫する男の襟を親父はむんずと掴むと、軽々と持ち上げた。
そして、日ノ本の国と繋がる門の前に引きずって行く。

「今度は迷子にならないように気を付けなさい」

旅人が投げ出された場所は洞穴だった。
そこは日ノ本と月本国を繋ぐ、数ある入り口の一つ。
旅人は昔話の主人公のようにコロコロ転がっていった。
そして明かりが見え、出口に向かう。

「何だったんだ…」

もう一度確かめるように背を向く。
すると「月本国入り口 妖怪の国へいらっしゃいませ〜☆(美女限定)」と書いてあった。
旅人は絶句した。

そこは人間の暮らす国と、妖怪の暮らす国は案外近くにあるよという話。
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