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□NARUTOの世界で成り代わり
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あの後、私と我愛羅は大人にみつかって連れ戻された。どうせ二人だけで生活しようなんて無理な話だし素直に投降した。ヘイヘイすみませんね。こんな家族のいざこざに巻き込んで申し訳無いね。でも帰ってからは我愛羅は離れよりもっと距離のある山小屋みたいなところに夜叉丸と移った。否、強制的だ。私も元の部屋には戻れず、昼は父ちゃんの仕事場の近く、夜は知らない大人が部屋を監視していた。何が恐ろしくてこんなに警備するんでしょうね。腹がたつ。それでも父ちゃんはあの時不意に出た言葉が相当ショックだったのか私に話しかける頻度が格段に増えた。しかし会話はしない。そう、とか、うん、とか頷いてやるだけ感謝してほしいくらいだ。この人のおかげで生活は出来ているがそれは親の義務だ。私が二十歳になるまでのな! だから喋らない。今日も無言の時が流れていく。そんな日が続いて早幾年。



 アカデミーというのが「木の葉」という里にあるらしい。忍者の先生が生徒に勉強を教えるのだ。私も当然この里の忍者になった。ちなみに成績は良い方だと思う。今日は下忍になる卒業テスト。カンクロウも一緒に受けた。私が余裕なら彼だって余裕だろう。だって兄弟だもの。
「へ、余裕じゃん! テマリ見てたか?」
「当たり前だ」
無邪気に笑うカンクロウ。相変わらずじゃんじゃん言っているがなれてしまった。でも、本当はここにもう一人いなくちゃいけないのに。そう思うと悲しくなった。我愛羅は元気だろうか。そういえば、夜叉丸が亡くなったようだ。うちの父が夜叉丸に刺客を頼んだと。よりにもよって我愛羅を殺そうとするなんて信じられない。彼は大分あの子を溺愛していたように思ったんだけど気のせいだったのだろうか。ぼんやりとしているとカンクロウが私を呼んだ。
「テマリ」
「なんだ?」
「帰ろう。みんな帰ったじゃん」
「そうだね」
あぁ、帰ろう。帰ってさっさと寝てしまおう。



「お帰りなさいませ、お二人とも」
「下がれ、忌々しい」
帰ると暗部がいた。仮面と黒装束。私の大嫌いな父親が派遣したのは解っている。この人達は悪くないが監視のためにいるなら帰ってほしい。カンクロウは横で「父さんにそっくりじゃん」と言っていたから頬をつねった。「忌々しい」か? 敢えて言ってやってるんだ。嫌味を込めてな! が、暗部の人は気がついたら消えていた。今日は女か。くすりと微笑んでから去った。ここに来るやつは毎回違うやつだ。でも最近思うが彼らは私たちに「お帰り」を言うためだけにここにいるのではと思う。親父はまた回りくどい手を使う。
「私は寝る。カンクロウ、起こすなよ」
「…テマリ、おれと修行するって」
「…言って無いぞ」
「言った」
「…言って」
「言った!」
ジーっと見てくるカンクロウ。この目は引かない時の眼だ…。相変わらずめんどくさい。
「一時間だけだぞ…」
終わったら速攻で寝る。



 カンクロウの躾…いや、修行を終わらせると、やつは「ぜぇはぁ」言いながら家に帰った。というか帰らせた。私は家に帰らずに日陰になっている岩の間で身を休めた。正直眠くてしょうがない。大型の扇子は日光を遮るのにちょうど良い。砂隠れでは日射病なんてざらだ。病気にならないために持っていたらいつの間にか武器にもなっていた。一石二鳥だ。その上、気流に乗れば空まで飛べる。なんというチート。私は己の素晴らしい能力を誇りに思いながら、そしてニヤニヤしながら眠りに入った。しかし随分眠っていたようで気が付いたら夜だった。砂漠の夜は寒い。それに早く帰らないとまたカンクロウが大騒ぎして暗部が動き出したら大変だ。
「急がないとな…」
そう呟いて、回りを見渡すと薄暗い闇だった。家は十分圏内にある。眠い目をこすってアクビも洩らすと人の気配を感じた。足音がする…ということは暗部が来たわけではない。あいつらは瞬身の術という瞬間移動を使う。テレポートか? とも思ったが違うらしい。それにしても誰だ。
「…お前はテマリ?」
それよりも先に名前を呼ばれた。



「テマリか?」
振り向くとそこには背が伸びて、雰囲気も目付きも幾分厳しくなった弟がいた。髪の毛の長さはあの頃から変わっていない。自分で切っているのだろうか。それよりも私はびっくりして目を見開き、そして勢い任せに弟に駆け寄った。まだ私より小さいが大きくなって帰ってきた。私は抱き締めた。そうせずにはいられない。
「我愛羅! 会いたかった。嬉しいな」
「おれも嬉しい…」
「? 前は僕だったのに」
「男だから…その方が強そうだ」
「そうか? そうだな。私はどちらも良いと思うぞ」
 なによりも我愛羅に会えたことが嬉しくてしょうがない。弟は素直に抱きしめられているが幾分恥ずかしいようだ。でも嬉しそうに笑ってくれた。



 どうやら我愛羅は我が家で共に過ごすらしい。というか、家族なんだから最初から一緒に住まわせろ。親父殿が許しを出したらしいが何か目論んでる。きっとそうに違いない。まぁ帰ってきたなら万々歳だ。私と我愛羅は扇子に乗って空を飛んでいる。二人も乗せて飛んじゃうなんてやっぱり私は天才だ。チャクラとか言う不思議生命体を、華麗に操る私はきっと将来大物になれる。そう信じて疑わない。
「空を飛ぶのは初めてだ」
「私も人を乗せたのは初めてだよ」
「おれが最初?」
「そうなるな」
私が言うと我愛羅ははにかんだ。街が見え、家も見える。玄関の前ではカンクロウがそわそわしながら立っていた。扇子から降り立つとカンクロウは泣きそうな顔で抱きついてきた。
「遅いじゃん! 心配させんな」
あぁシスコンの弟を持つと困るな。好かれて嫌なことは一つも無いのだけれどね。でも後ろの我愛羅は苛立たしげに彼を見ている。…なにこのフラグ? カンクロウもそれに気づいた。一瞬で顔が敵を見る様に変わる。
「お前は我愛羅じゃん…何しに来た」
おいおい、初っぱなから喧嘩を売るなよカンクロウ。
「お前に用は無い。風影に呼ばれたから来ただけだ。テマリが居なければ呼ばれても来ない」
売り言葉に買い言葉だ。というか私がいなけりゃ命じても来ないわけね。しかし何を思ったのだ弟一号。
「残念だな、テマリの一番はおれだ」
いきなり何を言い出すの! しかもいつからそうなった? しかし弟二号も食らいつく。
「ふん。テマリは面食いだ。だから可愛いと言われたおれが一番だ」
いや、ちがうよ? 確かに言ったけど違う違う。 面食いなのは否定しないが。
「自分で可愛いだと。 ならずっと一緒だったからテマリはおれのだ」
「いいや、おれのだ。何なら力ずくでものにする」
バチバチと二人の間に火花が散る。あぁ…、
「ま、いっか」
止めるのもめんどくさい。もうどうにでもなればいい。
「私、お風呂先に入ってるね」
二人を残して家に入る。あぁ、今日も頑張った。



 お風呂、我が至福の時間。ほっと一息つくと全身が脱力して行く。もうずっとこのままでいたい。外に出たくない。けど浸かりすぎるとのぼせるから出た。いい加減あいつらも大人しくしてるだろうという期待も込みだ。が、
「お前煩いじゃん! 化け物!」
「ふん、その化け物が怖くて手も出せないくせに。殺すぞ」
「黙れ。おれを殺したらテマリは絶対お前を許さない。里からは追放だな!」
「小賢しい。なら跡形もなく消すだけだ。貴様は行方不明。テマリはおれのもの」
「殺す」
「上等だ」
うわ…嫌なところ見ちゃった。て言うか凄い喧嘩だな。しかもカンクロウだけじゃなく我愛羅までシスコンだったか。悩んだ末に止めることにしたが、汚れるのも疲れるのも嫌だ。でかい扇子は重い。下手したら家が壊れるから持たない。手元にあった普通の扇子を使う。風がそよそよ動いた。でも天才の私にかかれば威力絶大。
「そーれ、飛んでけぇ」
一声かけるとブラザーズはゆっくり宙に浮く。白熱しすぎて気づいて無いがそれでいい。後は適当な高さまで持ち上げて怪我しないところで落とせば任務完了。そして目論見通り彼らは落下。落とされるまで気がつかなかったのか目をぱちくりさせている。
「風呂上がったから入りなよ〜。あ、カンクロウが先な! あんた汗だくだろ。我愛羅はこっちおいで」

といっても動けなそうなのでまた扇子を動かして強制移動させる。カンクロウは風呂。我愛羅は私の目の前。ばつが悪そうに彼は呟く。
「テマリ…ごめん」
「わかってるならよし」
やっぱり可愛いわ。否定しない。



 その後カンクロウにもお説教。まず喧嘩を売るな。だって、とか、でもは聞かない。それを見ていた我愛羅が鼻で笑う。カンクロウがまた青筋を立てたが、その前に私は我愛羅にも拳骨を食らわせる。不意打ちだから痛いと言われたが知らん。カンクロウはそれを見て渋々納得。我愛羅はぷいっといじけた。
「悪かったな、もう寝る」
「じゃんは言わないのか」
「言うと怒るだろ。じゃんじゃん言うな、って」
「そうだな。お休み」
「あぁ」
こういう時、カンクロウは素直だ。素直なやつはいい男になるぞ。しみじみ思った。ところで問題は我愛羅だ。ちなみに風呂は済ませてる。瓢箪も一緒に入ったのかと疑問に思ったが、そう言うわけではないらしい。いじけた我愛羅にちょっと溜め息。
「お前も人を見下すのはやめなさいね」
「見下してない。おかしかっただけだ」
「なら態度に出すのはやめなさい。また拳骨するよ」
「…」
返事はなかった。意地っ張りめ。でもそれ以上に何か言いたそうだ。もじもじしてるし、目も泳いでる。何か聞こえた。
「ん?」
「…もうやらないから一緒にいてね、テマリ」
ポカーンとする。あぁなるほど。これを言いたかったのね。




 許してやる、と言うのはいささか上から目線だが、そう言うと弟はやんわり笑った。昔みたいにニコニコ笑ったりしないようだ。きっと夜叉丸を殺したのは我愛羅だろう。そのせいでちゃんと笑えないんだろうと思う。けどそれまで一人で辛かった。それだけは分かるよ。我愛羅は今私の部屋で、私の隣で目を閉じて横になっている。何故私の隣なの? と聞くと「風影に来いと言われた。テマリの側にいれるなら良いと言った。ダメなら帰る」と、片言のように喋る。意味は通じるが、これは完璧に私は拒否出来ないパターンだ。拒否ったら親父殿に殺される。我愛羅にも泣かれる。それは勘弁願う。「ふーん…」と興味なさそうに呟くと我愛羅がまた「ごめん」と言った。謝ること無いのに。
「おれはわがままだから、優しいテマリの側にいたい」
「優しくないよ。むしろ残酷なほうだ」
「…なら好きだから一緒にいたい」
「それなら嬉しい」
 そう言うと我愛羅はゆっくりと寄り添って来た。あぁ、あのときと同じパターンか。しかしあのときよりは出るとこは出てるからなぁ。なんか微妙な発達ってやっぱり恥ずかしいもんだな。まあ、一度大人を体験した私に恥ずかしいものなど数える程度だけど。
「テマリ…、」
ぐいぐいと私の腕を自分の体に覆わせようとする弟。良い年してまでこれをしてたら異常だが、あいにくまだまだガキんちょ。まぁしょうがない。
「ハイハイ…」
そして抱き締める。シャンプーの良い匂いだ。眠気を誘われる。
「お休み、我愛羅」
そう言うと「おやすみなさい」と返って来た。きっと明日からまた忙しくなるんだろうなと思った。
 目を覚ますと、我愛羅はいなくなっていた。変わりに居たのは暗部の仮面。男か…。
「おはようございます」
「どうせならセクシーなお姉さんが良かった…」
「は?」
「いや…一人言」
朝から気分は最悪だ。天気が良いのでプラマイということにしておこう。
「カンクロウと我愛羅は?」
聞くと暗部は「風影様のところです」と答えた。まじか。なら何かしら必ず勃発するな。でもそんなところにわざわざ出向くなんてねぇ…。修行してたほうが楽。なるほど、よし修行に行こう。が、暗部に肩を捕まれた。
「テマリ様、風影様がおよびです」
やっぱりそう来たか!



 親父殿の職場に行くと愕然というかがっかりした。砂だらけ。誰が掃除するんだ。またなんか我愛羅の気に障るようなことを言ったな。カンクロウは昨日のお説教が効いたのか子狸ちゃんの被害は受けてないようだ。ただ私に気づくと助けてくれという視線を送られた。溜め息。
「何やってんの、我愛羅」
呼び掛けると我愛羅は殺気をしまった。私にゆっくり近寄ると腰に抱きつかれた。離れる気はないみたい。
「こら、姉さんが歩けないだろう。ったく…カンクロウも帰るよ。喧嘩するくらい暇なら用は終わったんでしょ」
「おう…」
着いてから二分。私はでかい荷物を抱えて親父殿の職場を後にした。暗部の男の表情は見えないが、相当びっくりしてるようだ。父ちゃんだって目ん玉ひんむいてる。恐れ入ったか、さぁ我を敬え奉れ。本当はこんなポジション要らないんだけどなぁ…。家に帰っても我愛羅の機嫌は微妙だった。何があったかはカンクロウが話してくれた。まぁ、要約すると「下忍になってくれ。それで兵器として死ね」ってさ。そりゃ怒るわ。せめて「君の力が必要だ。頼りにしてる!」とか言えなかったのか? これだからバカ親父って言われるんだよ。
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