約束

□日常編
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昨日のことは今でも夢じゃないかって思ってしまう。朝になったら蘭太郎くんも楓ちゃんもまだいるんじゃないかって…思ってしまう
そんな訳ないのにね。あれは現実なんだから

『…』

手が止まる。
物語の世界ぐらい幸せでもいいじゃないかと、ペンを走らせていたけど…
今思い浮かぶのは昨日の出来事ばかりで
この世界が物語だったら良かったのに…いや、物語でもコロシアイなんて嫌だな
みんなが仲良くする話だったら良かった。誰も死なない。みんな幸せでハッピーエンドな話。読者からしたら退屈な話だな
…ふと、指に目をやる。蘭太郎くんにあんなに綺麗にネイルをしてもらった指がもうボロボロだ

『蘭太郎くん…』

また泣きそうになるのを紛らわせるように、ペンを走らせる
どんなに書いても、悲しいお話になってしまうのに嫌気がさす
ダメ、これじゃ無い。困難があっても立ち向かわなきゃ、オズと魔法使いみたいに…

「お!いたいた!」
『…解斗くんに終一くん』

研究室の扉が勢いよく開いた
私は書いていた原稿用紙を軽くまとめて、解斗くんと終一くんに向き直る
終一くん…帽子とったんだ。私の視線に気づいたのか苦笑いをされてしまった

『どうかしましたか?』
「どうもこうもねーよ
みんなで朝メシ食おうと思って食堂で待ってたのに、最原も黒沢もこねーからよ
わざわざオレが、こうして呼びに来てやったんだろーが」

どうやら、探し回ってくれたらしい
窓を見ると日が明るいことに今気づいた
昨日は部屋でベッドに横になっても寝れる気がしなくて、つい研究室に来て絵本を作ろうとしたけど…
徹夜しちゃってたんだ

『ありがとうございます
軽く片したら行くので、先に食べてて構いませんよ』
「…その敬語やめた方がいいんじゃねーか?」
『え?』
「オメーはそうやって、丁寧な言葉で周りを遠ざけようとしてるようにしか見えねーんだよ
そんなんじゃ馴染むのに時間がかかんだろーが
タメ口で話してみろ!案外楽になるからよ!」
「ちょ、百田くん?」
『…でも、友達じゃないのに失礼じゃ』
「友達どうこうの前に仲間だろうが!
失礼とかそんなん考えてんのは黒沢だけだ」

なんで解斗くんはこんなにも真っ直ぐなんだろう。太陽みたいに暖かい感じがする
…仲間、か。初めてそんなことを言われた
みんなが仲間と言った発言をしても、客観視して、私は関係ない、私なんか入っていないって考える私とは大違いだ

『本当、?本当に、失礼って思ってるの私だけかな?
私もみんなの仲間、かな?』
「たりめーだ!なぁ、最原!」
「うん…黒沢さんは大事な仲間だよ」
「もしも、黒沢を仲間じゃねーつうやつがいたらオレに言え!オレが懲らしめてやるからよ!」
『ふふっ
懲らしめるのはダメだよ』

少しだけ、その太陽に近づいても許されるかな…
私も仲間だと胸を張れるように

二人には片付けが終わったらすぐに行くから、先に行って食べ始めてていいよと伝えて出したものを片す
息抜きに読んでいた絵本を片そうとしたら、本棚の奥にも本があるのに気づいた。この間は背表紙しか見なかったから気づかなかった…
気になって、取り出して見ると私が作った物だった。しかも…これは

『…』

本を奥に押し込んで、他の本も片す
食堂に早く行かないと…
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