小話集

□下界の雨
2ページ/4ページ




閻「朝っぱらから頭を刺さないでよ鬼男君・・・」



額から血を流しこちらに背を向けてうずくまっている大王が一人。



鬼「目が覚めたら不愉快な物が視界をうめていたので取っ払っただけです」



爪についた血を仕方なく布団で拭きながら小刻みに震える背中に言った。



閻「えっ不愉快な物ってオレのこと?」



という声が聞こえた気がするがそれは無視する。



鬼「ところでなんで大王はここにいるんですか?」



閻「へ?」



鬼「『へ?』じゃないですよ、ここ僕の家ですよね!?」



昨日の記憶をいくら探っても自分の部屋で寝ていたところまでしかない。



閻「ここは下界だよ」



鬼「・・・は?」



閻「うつしよ、現世、浮世。あ、浮世はちょっと違うかな?」



大王が指を立てて一つずつ唱えているがボクは頭が追い付いてなくてそれを見てるしかなかった。



閻「とりあえず、ここは冥界ではなくて鬼男君の家でもなくて人間の生きている世界だよ」



ポカンとしていたのに気づいたのか簡単に説明してくれた。



下界…



あまり聞きなれた言葉ではないから実感がわかない。



鬼「…ではなんでここに今ボクたちはいるんですか」



閻「遊びに来た!」



鬼「…は!?」



子供の様にキラキラさせた目をこちらに向けている大王に反射的に突っ込んでしまった。



閻「オレが鬼男君と下界で遊びたいから鬼男君が寝ている間にそーっと一緒に現世に来た!」



これまた子供の様に楽しそうに話している。



というか仕事はどうした、仕事はっ!?



今日は仕事量が多いから忙しくなるって昨日話し合った記憶があるのだが…



閻「ということで早速外に行こう!」



鬼「え、ちょっとまだ準備が…ってその前に服着替えろ服!!」



まだ布団から出られていないうえに寝巻のままの自分と仕事着の大王、とても準備ができているとは思えない。



意気揚々と出かけようとする大王を言葉で止めようとするがそんなことはもちろんできない。



ガチャっという扉の開く音がして外のまぶしい明かりが部屋に……





入ってくることはなく、かわりに湿っぽい空気が流れ込みどんよりとした雲が覆った空がドア枠から見えた。



閻「…」



鬼「…大王」



閻「い、いや、でもまだ雨とか降ってないから!今のうちに出かけちゃえば大丈b…」



サーー



開けっ放しのままのドアから雨の降る音が聞超え始めた。



体をこちらに向けガッツポーズの体制のまま顔は外に向いている。



そして動かない。



鬼「……大王」



慰めのためにまた呼ぶ。



閻「まだ!まだ傘があるから大丈b…」



バっとこちらに焦った顔を向けて立てかけてある傘を持った



とたんに



ッザーーー ビュオオオオッ



雨が激しくなり強い風が吹き始めた。



閻「…」



また外を見て固まった。



閻「ま、まだ…」



何がまだなのか、この状態でどうやって外に出る方法があるのか、まったくもってわからない。



そんなことを思っているうちに、



ゴッガッガシャン!



何かがぶつかる鈍い音が近づいてくると思ったら、



ジャッ―――



扉の向こうに何か大きな物が横ぎったのか部屋が一瞬暗くなった。



その大きなものは錆びた何かの看板だった。



鈍い音は遠くなっていったが、目の前でさっきの事を見ていた大王は、



恐怖のためなのか絶望のためなのか体をこちらに向けないまま固まっているので表情が見えない



が、ドアあけっぱのまま雨に吹かれているのを見るところ相当なダメージは負っているのだろう。



そんなこんなで大王の現世で遊ぶ計画は儚く消えた。




次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ