短編恋愛モノ(ネオアトラス3)

□渡しそびれた指輪
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「ちぇっ、遅くなっちまった」
あいつ、喜ぶかな……
 サミュエル・チェンバレンは、船の到着予定時間が大幅に遅れたことにいつものように悪態をつきながら、商館への道を急いだ。
 それに、今日は会長への報告だけではないのだ。彼の手には新大陸で見つけた珍しい宝石で出来た指輪が入った箱が握られていた。
 一目見た時から、その指輪は絶対に彼女に似合う事を彼は確信していた。怪しい風体の彼が指輪を買っていくのを見て、店員が疑いの目を向けていたが、そのときの彼には珍しく恥ずかしいというよりは渡してやりたいとい気持ちの方が強かったのだ。
 そして今、彼は彼女の部屋の前に立っている。意を決して、大きく息を吸い、扉をノックした。
 ───しかし、返事がない。すると、ミゲルがやって来て、彼にこう教えてくれた。
「あ!チェンバレン、ご主人様は今お客様とお庭で話していますから、しばらくお待ちくださいね」
「は?客って……………どこのどいつだ」
チェンバレンのただならぬ殺気にミゲルは身震いした。
「いや…………それはもちろん、高貴なお方ですよ………………貴族の伯爵子息様で…………」
「俺が来るってことくらい知ってたろ」
「いやですからその、相手様も急に……」
彼はミゲルの言葉を最後まで聞かずにその場を大股で離れた。
「胸くそ悪ぃな!!ちぇっ!ああーーこんな指輪さっさと買取業者に売り飛ばしてやるぜ」
彼の本心を言うと、寂しかった。なんて自分は運がないのだろうか。本当は葛藤しながら自分の心に納得させるためにわざとらしい悪態をついているのだ。
 すると、むこうに楽しそうな笑顔を浮かべる彼のご主人がいた。
「……………なんだよ。あんな笑い方…………1度だって俺にはしないくせに………なんなんだよ」
もはやそれしか言葉が出なかった。そのまま彼はこれ以上見ていられないとでも言わんばかりに目を背け、全力で港の方へ走り去ってしまった。
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