特別編

□Funny Rainy Season @
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────この物語を、素敵なフォロワーさんであるのぐちさんに捧ぐ
 
 
 
 
 
「──────ん?」
サミュエル・チェンバレンは、自分の額に落ちる冷たい雫で目を覚ました。外は昼間で、曇天の中雨が降っているが、今は一応家の中にいる。
「寝ぼけちまったのか……。あの会長の人使いの荒さに俺の肉体疲労も限界ってわけなんだろうな」
彼はいつものように悪態をつくと、また眠りについた。…………しかし。またもや同じ原因で目を覚ます。しかも先程より量が増えている気がする。気になった彼は天井を見上げた。よくみると老朽化した板の隙間から雨漏りをしていた。
「なんだよ!!!雨漏りかよ!!!!けっ!!!」
チェンバレンは起き上がって昼寝などやってられないと言わんばかりの勢いで眠気を取り払い、例の会長、イサベル・シルヴァの元へ向かった。
 
 イサベルはアフタヌーンティーのカモミールティーを楽しみながらガラス製のカップの中身と外の雨を交互に眺めていた。この時期はいつもより海が荒れるので、探検航海も出すことが出来ず暇を持て余していた。ミゲルも彼女が作ってくれたイチゴタルトを嬉しそうに頬張りながら、同じように外をぼんやりとながめていた。
「雨、いつになったら止むのでしょうか、ご主人様。」
「そうね、ミゲル。雨の時期は眠たくなっちゃう………」
イサベルが大きなあくびをしようとしたその時。大げさな音を立ててチェンバレンが部屋に押し入ってきた。
「おい!!会長!!!俺の話を聞きやがれ!」
ミゲルは驚いて椅子からオーバーに飛び上がった。
「チェンバレン!!急に盗賊みたいに押し入ってきてどういう訳ですか!?」
「うるせぇ、ちょび髭!」
「なっ……………………」
チェンバレンの暴言にミゲルは言い返せず、ただ口をぱくぱくするしかなかった。
「…………どうしたの?給料は上げないから」
イサベルは相変わらず商人らしく平静だった。しかしチェンバレンはお構い無しに突っかかる。
「んなことはわかってらぁ。………あんたがくれた家、雨漏りするだよ!!!」
それを聞いた彼女は吹き出した。
「あら!!そうだったのね!!!うふふ、それは失礼しました。」
「うふふ、それは失礼しましたじゃねえよ!!!あんな家で寝れるか!!」
彼の訴えもお構い無しに、イサベルはただテーブルの上にある手作りのタルトを1切れカットすると皿に載せて振舞った。
「まぁ、お掛けなさい。支払い方法や詳しいことを交渉しなきゃ……ね?」
「…………あんたが払えよ」
イサベルは笑顔のままチェンバレンからタルトを取り上げた。彼はふてくされると、渋々小さな声で割り勘ならと承諾した。彼女はもちろん笑顔のままだった。しかし、彼にはまだ解決しなければならないことがあると思っていた。それは修理が済むまでの間に住む家のことだ。
「………うちの商会にしばらく泊まる?」
案の定、イサベルがそう言ったため、若干の下心があるチェンバレンは快諾しようとした。しかし、ミゲルがその下心を察知して猛反対を始めた。
「な、なっ………なりませんぞ!!ご主人様!!!!!断固としてなりません!!!!!」
「あら、どうして?」
「そ、それはですね………………」
ミゲルは理由をはっきりと説明できるほどの勇気ある男ではなかった。チェンバレンがそんなミゲルを威圧するように睨みつけている。そこでふと、彼はペレス提督が博物図鑑の編纂の助手兼雑用係が欲しいと言っていたことを思い出した。
 ───これは素晴らしい言い訳ですぞ!!いやぁ、わたくしって存外素晴らしいですな……!!
 ミゲルは突然嬉しそうな声色に変わってイサベルに提案した。
「そう言えば!!ペレス提督が博物図鑑の編纂を手伝ってくれる短期間助手を探しておりました!!」
「嘘つけ………んにゃろぉ、このちょび髭……!!!」
「ほ、本当ですって!!!ご、ご主人様ぁ………」
チェンバレンは嘘だと確信していたのでミゲルに危うく掴みかかりそうになった。
 ─────あの堅物偏屈のペレス提督がそんなこと言うわけないだろ!!!
「本当なんですってば!!」
「本当だとしてだな、そんなもん知り合いのホ………教授に頼めばいいだろ!!」
知り合いの教授とは、ジェノバに住むこれまた特徴的な考古学者ジェラード教授のことだ。彼はペレス提督をこの世の美の最高と定義しており、度々男性文体で情熱的な手紙(というよりは恋文)を商会に送り付けてくるため、おのずとイサベルとは顔見知りなのだ。彼女はチェンバレンの言葉に苦笑いしながら否定もせずに頷いた。すると、偶然にもペレス提督が報告に入室してきた。チェンバレンとミゲルはすぐに事の真偽を確かめるために彼に突っかかった。
「…………何ですか、急に。事実ですが、何か思い当たるいい助手でも居ましたか?」
ミゲルはチェンバレンが何か言い出す前にとさっさと説明を始めた。
「はい!!こちらにおります!!!!!!チェンバレンが、なんでも家の雨漏りが激しいので、屋根の修理が済むまでの間手伝って下さるそうですよ!!」
チェンバレンはペレス提督が苦手だったので、心の中では祈るように断ってくれと繰り返し念じていた。だが…………………
「そうか、チェンバレン提督が。よろしく」
ニコリともしないペレス提督のあまりにそっけない快諾の返事に、チェンバレンは膝から崩れ落ちそうになっていた。
 
 こうして、2人の妙な同居生活が始まった。

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