小説置き場!!
□百目神
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百眼神様に連れていかれちゃうから、絶対に百眼神社に行っては駄目。
と、幼い頃私も母によく言われたものだ。
思えば、あの頃の母は優しくて温かった。
いつだって、私や父の事を想ってくれていた。
一体いつからだろうか?そんな母が変わってしまったのは。
あれは、私がまだ小学生の時だった。
母はある日、父ではない別の人と恋をした。
世間ではそれを「浮気」と呼ぶ。
それでも父は、変わらず母を愛していた。
まだ恋とか愛を知らなかった私は、
そんな父を馬鹿らしく思い、ある時父を責め立ててしまった。
「お父さんは、お母さんに酷いことをされているんでしょ?
なんでお父さんは、お母さんの事を嫌わないの?お父さんおかしいよ!」
父は困った様に笑いながら「寂しい思いをさせてしまったお父さんが悪いんだ」と目を伏せ、私の頭を優しく撫でた。
その時父は、初めて私に涙を見せたのだ。
それから半年後、父は心を病ませて首を吊り自殺した。
今でもまだ、私はあの時の父の顔を忘れる事ができない。