secret修正入ります!2
□イニD
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【壊れ逝くもの】
午前一時。
こんな真夜中に名前をドライブに誘うのもどうかと思ったが、走りなれた赤城の峠だし問題ないだろう。
まあ、ドライブって言やあ聞こえはいいが、俺たちの目的は夜景を見るなんてことじゃなく峠をかっ飛ばしてるだけだ。
以前名前が走るんなら自分も連れて行けって言っていたことを思い出し、誘ったら嬉しそうに付いて来たのだ。
そんなに喜ぶんだったらもっと早く誘えばよかったと柄にもなく後悔したのは二時間前。
一つ二つとコーナーを攻める度体の中から熱くなる。
ステアを握る手に力が入る。
シートから伝わるエンジン音。
ロータリーの心地よいサウンド。
こいつを走らせている時だけは無心になれる。
『ねえ、啓介?』
「あ?なんだ」
五つ目のコーナーを攻める中名前が窓の外を見ながら言った。
『車好き?』
「んなの、好きに決まってるだろ」
何言ってんだ今更。聞かなくたって分かるだろ。
『じゃあさ、私のことは?…好き?』
名前は俯きながら言った。
膝に置いた拳が震えているのが横目でも分かった。
「好きに決まってんだろ!どうしたんだよ急に」
『別に急じゃないよ。前から思ってたの、啓介私といるときずっと車の話ばっかりだもん。…だからね、不安になったの。…私と車、どっちが好きなのかなって』
いつの間にか頂上のゴール地点に着いていた。
気づかないくらい今の俺は相当動揺してんだな。
名前にそんな思いさせちまうなんて…。
情けねーよな……楽しんで、浮かれてたのは俺だけか…。
車を止めて名前を外に連れ出した。
二人でボンネットに座る。
普段なら安心するエンジンの熱が今は何も感じない。
憎たらしい程の満天の星が俺の心とは裏腹に澄み切った夜空に輝く。
はー…、てっきり名前も車が好きで楽しんで聞いてくれてんだと思ってた。
「ごめんな。お前にそんな思いさせちまうなんて、…彼氏なのにな、…飽きただろ?俺に」
ホント、情けねーよな俺って。
すぐ自分の世界に入り込んじまうし、周りが見れなくなっちまう。
『飽きたことなんて一度もないよ』
名前が前を見ながら呟いた。
「今更嘘つかなくたっていいんだぜ?」
『嘘じゃないよ!』
名前は身を乗り出して伝えてくれた。
『確かに車のことばっかり話すし、私の話ちゃんと聞いてくれないのは嫌だけど、でも、
車の話してる啓介はキラキラしてて大好きだよ!峠攻めてる啓介も格好いいもん!だからね、飽きたことなんてホントにホントに一度もないんだよ!』
そう言って笑顔を向けてくれる彼女に俺は頭を撫でながらありがとなと囁いた。
見上げた満天の星空が、名前のおかげで先程の憎たらしさを愛しさに変えていた。
「好きだよ、名前」
そして柄にもなく名前の顎に手をやり彼女の唇に自分のソレを合わせたのは、名前の瞳に入り込んだ星たちのせいだと俺は思う。
end.
20190220