無双

□記憶
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「何故……何故です…」


貴方の冷たくなっていく身体をしっかりと抱きしめて問う。


「お前の手…なら……逝くのも……よい…と」


彼は小さく呟いた。

私の剣が彼を貫いた。それは紛れも無い事実。



避けられる筈だった


避けると思っていた


避けて…ほしかった



「お願いです……死なないでください……」


彼の蒼い装束が少しずつ赤く染まる。

何度も見てきた人の血。これがこんなに恐いだなんて、今まで思いもしなかった。



そう…私は何もわからず、恐れも知らぬ間に何千、何万の人々の命を奪ってきた。

彼らにも大切な人がいたのかもしれないのに。

自分がそうなってから気付くなんて……馬鹿ですよね。


と、涙の流れる頬に冷たい手が触れた。


「ふっ……馬鹿…みたいに…泣く……な…」


その手に答えようと手を重ねたが、彼は手を首へと廻し私の顔を引き寄せる。


「ん……」


優しく触れる唇

それが放れたとき彼が何か呟いたようだった。



そして……それが彼の最期だった。


「曹丕……どの?」


動かない身体。息をしない唇。
初めて『死』の恐ろしさを知った。
それはまるで身体の一部を刔られたような痛み。


「目を…目を開けてください……」





貴方には
世界で一番大切な人はいましたか?

私はたった今、その人を…貴方をなくした。

いいえ……私が殺したんだ。


「っ……嫌だ……いや……死ぬ……死ぬなんて……」


そんなこと有り得ない。
そう信じてきたのに……貴方は私より先に逝ってしまった。

花びらが簡単に散ってしまうように、人の命は尊く、はかない。


私が選べなかった道を貴方が選んだ。
自らを犠牲にする道…争いを止める道を

らしくない、と言えば貴方は笑いかけてくれましたか?


ああ、私を呼ぶ声が聞こえる。けれども答えない。







ココニハ モウ イキルイミ ナンテ ナイカラ







 
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