マイソロ2
□そして彼はやってきた
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「リティ。貴方に会いたいって人が……」
「リティ!」
「うわぁっ!」
男の目当ての人物は、食堂で仲のいい者達とお菓子タイムの真っ最中だった。
カノンノの声がした。と思って振り向いた瞬間、まさか知らない男に抱き着かれるとは思いもしなかっただろう。
「会いたかったぜ!お前にいつあえるかわかんないからこっちから来てみたんだよ」
「く、苦し…」
「てめェ!リティから離れろ!苦しがってるだろーが」
苦しがるリティを助けようと、スパーダがリティから男を押し退ける。
「あ、悪い悪い。ついテンション上げちまった。でもボクだってお前に会いたくてさー」
ウキウキと話す男をリティは改めて見てみる。
「ごめん…誰かわからないんだケド」
「ラファールだ。もうボクのこと忘れたのか?冗談もほどほどに…」
そこまで言って男――ラファールは何かに気付いたようだった。
「あー…記憶、消したんだもんな。そっかー…」
「あ、と…ごめんなさい……」
ラファールと名乗った男は、それは深いため息をついてうなだれる。かなりショックだったようだ。
その一部始終を聞いていたユーリはある事に気付く。
「記憶を『消した』ってどーゆー事だ?なんでこいつの記憶がないのを知ってる?」
そう。ここにいる全員はリティが記憶喪失だというのは知っているが、それは船に落ちた衝撃でと聞いていた。
つまり、船に乗っていないラファールが何故そんな事を知っているのかと聞きたいのだ。それに消したという意味も気になる。
「んー…?ボクにもいろいろあんだよ…」
大きなため息をつきながら壁に寄り掛かってしゃがむ彼は、見ているこちらにまでドンヨリとした空気を運んでくる。
それを見たユーリもさらに問い詰める気になれなくなった。
「君はオレを知ってるの?オレ、ディセンダーなのに?」
「もちろん。ボクもお前も世界樹から生まれた。当然だ」
「世界樹から生まれた!?」
リティとラファール以外の全員が叫ぶ。
「あれ?言わなかったっけ?」
「あ゙ぁ?聞いてねェよ」
怒ったスパーダがリティのほっぺを軽くひっぱる。
「ふひーひはひ」
「ぶっはっ!ひっでェ顔」
「おいコラ、イチャつくんじゃない」
「ばッ!イチャついてねーよっ!!」
ニヤニヤするユーリの言葉に素早く反応するスパーダ。
振り返った彼の顔は恥ずかしかったのか少し赤かった。
そんなやり取りを見ていたルカが、おどおどしながらもスパーダに話しかける。
「す、スパーダ…僕たちが驚いてるのはラファールさんの方だよ」
「あ゙?…そりゃそうか。リティが世界樹から生まれたって不思議じゃねーもんな」
「なんだよー!つねられた意味ないじゃないか」
「意味はあるぜ?面白い顔を見れたし」
ぐひひひと下品な笑いをしながら、リティをさらに挑発する。
当然この後は言い争いに突入するので、今は二人を無視するのが無難だろう。
「えっと…君もディセンダーなの?」
「ディセンダー、ねぇ…。悪いけど後でいいか?打開策考えたい」
そこにいる者は顔を見合わせた。
体育座りをしながら頭をかかえる彼を無下に追い出すのは、あまりにも残酷。かといってずっと置いておく訳にもいかない。
「とりあえずリティの記憶が戻ればいいんだよな?」
「ルーク、記憶ってのは簡単に戻るもんじゃないぞ。それにラファールが言った『消した』ってのが本当なら思い出すなんて無理だろうな」
「そっか…じゃああいつどうするんだ?」
「とりあえず船に置いてもらえるように頼んだらいいんじゃないかな?」
皆がラファールについて真剣に悩んでいる中、ふとユーリが口を開く。
「……まずはこのどんよりとした空気は何とかなんないのか?」
ユーリにとってはお菓子を不味く感じさせる、ラファールの沈んだ空気の方が問題だった。