ナイルの雫

□第2章
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「ぎょぉえぇええぇぇ??!!」

キアンは叫んだ。
目は真ん丸、口は今や顔の総面積の半分以上を占めるほどに大きく開かれている。
せっかくの男前が台無しだ。

「ちょっ……ジェセル!
 マジで?」
ひとしきり叫んだあと、キアンは馴れ馴れしくも王を通称で呼んだ。

その無礼な行為を、当のジェセルカラー……ジェセルも気にしている様子はない。
二人は幼馴染みで、ジェセルにとってキアンは兄のような存在なのである。

「キアン! 声が大きい」
ジェセルは慌ててキアンの口を塞いだ。
無論、手で。

「で……でかくもなるだろうが!
 マジで、あの別嬪な皇女は……?」
キアンの言葉に、ジェセルは渋い顔で頷いた。

「はっ……はは……あははははは」
キアンは力なく笑った。

「オ……オリエント一の美女が、男……」

言葉が出てこない。
もう、笑うしかない。

そんな言葉は、まさしくこのような時に使うのだろう。

ジェセルより、いくつか年上に見える、ヒッタイトの皇女。
その美貌はオリエント一と謳われていた。
が、大抵そんな噂は当てにならない。
ジェセルもキアンも、正直そこまで期待していなかった。

けれども、あの皇女は。
噂に違わず、いや、噂以上だった。

キアンも、幼馴染みの婚約者でなければ自分が欲しいくらいだと思ったほどだ。
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