ナイルの雫

□第3章
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「すげぇ……」

朝起きてすぐ、窓の外を見たアイリは思わず呟いた。

辺り一面が、水に浸かっている。
昨日までは確かに陸地があったのに。

昨日までは確かに地平線から顔を覗かせていた太陽が、今日は水平線からお出ましだ。
今昇ってきたばかりの太陽が放つ光が、水面に反射してキラキラしている。

朝らしい柔らかい眩しさに、アイリは僅かに目を細めた。

が、その紫の瞳はすぐに見開かれることになる。

突如、肩にずっしりとした重みを感じたからである。

「ちょっ……何だよ」
やや不機嫌な声でそう言っても、重みは一向になくならない。

「よかったー……」
アイリに寄り掛かっている重い物体は、本当に嬉しそうな口調でそう呟いた。

アイリは外から視線を外し、その物体に目を向けた。

物体は、ジェセルだった。
どうも今日はアイリの手を煩わせることなく一人で起きたらしい。
感心なことだ。

「で? よかったって何が」
アイリが聞くと、ジェセルは心底嬉しそうな様子で話し始めた。

「ほら、エジプトはナイルの賜物だから」
だから今年もちゃんとナイル川が増水してよかった、とジェセルは言った。

その言葉にアイリも、ああ、と微笑んだ。
ナイル川は毎年、決まった時期に氾濫する。
その増水した水が、上流から肥沃な土を運んできてくれ、今年も豊かな実りが約束されるのだ。
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