ナイルの雫

□第6章
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「そんな怖い顔、すんなって」

牢へ入ってきた男は、身構えるアイリとメイを見るなりそう言って肩をすくめた。

信じられない、というようにアイリが2、3度瞬きをする。
メイは咄嗟に、自分の頬を親指と人差し指で抓った。

「い……痛いっ」

思わず顔をしかめるメイに、その男はふっと微笑んで見せた。
「何やってんだ、馬鹿」

アイリとメイがほぼ同時に叫ぶ。
「キアン!」
「お兄様!」

二人の前に現れたのは、紛れもなく、メイの兄であるキアン将軍その人だった。


「でも、何でキアンがここへ?」
再会の喜びの波がとりあえずひいた後、アイリが問うた。

「ああ、まぁ何つーか。
 そこの門番を殴り倒してきた。
 助けにきたんですよ、囚われのお姫様を。
 ジェセルと二人で」

キアンの言葉にアイリは片眉をつり上げた。
「ったく、誰が姫だよ………って」

アイリのうんざりしたような言葉が、一瞬止まる。
「今おまえ何て言った?
 ジェセルがどうとか言わなかったか?!」

掴み掛からんばかりの勢いのアイリにやや気圧されつつも、キアンは頷いた。
「いますよ、あいつも。この宮殿の中に。
 何か考えがあるって言うから今は別行動ですがきっとすぐにあいつもここに……」

ジェセルが、ここに?

アイリの胸に、熱いものが込み上げた。

たかがアイリ一人のために国を放り出して、自らの身の危険まで冒してこんなところへ来るなど、一国の王として、しかも名君と謳われるジェセルカラー王として決して誉められた行為ではない。
むしろ、馬鹿だ。大馬鹿だ。

そうは思うけれど、事実自分はその馬鹿な行為を嬉しがっている。
馬鹿はお互い様かもしれない。
嬉しさと、嬉しいと形容するには激し過ぎるような感情がないまぜになってアイリの心を揺さぶる。

アイリは思わずキアンとメイから顔を背けた。
これでも自分は男だ。
みっともなく泣くところなど、見せるわけにはいかない。
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