燦國恋歌

□序章・夢
1ページ/5ページ

ここは、たぶん古代中国の宮殿の一室か何かだろう。


朱塗りの柱に、辺りを柔らかく照らす灯籠。
棚の上には金色に輝く青銅器の調度品が並んでいる。


しかしその部屋には、そんなきらびやかさには全く似合わない、
つんとした薬の臭いが立ちこめている。


そんな中で、自分は泣きそうな顔をしている。

いや、既に泣いているのかもしれない。


自分は、その部屋の中心に置かれた寝台、その寝台から伸びている、
病み衰えてか細くなった誰かの手を握っていた。

その人が誰かは分からない。
けれどきっと、とても大事な人なのだろう。

きっともうじきにやって来る、その人との永久の別れに耐えきれず、
自分は泣いているのだ。

泣きながら、自分はその人の名を呼んだ。

……いや、呼ぼうとした。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ