燦國恋歌
□第二章・帝
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ふぅ。
息をつき、俺は帚を持つ手を止めた。
じっとりと額にしみ出してきた汗を帚を持っていないほうの、手の甲で拭う。
……暑い。
俺が燦へ異世界トリップしてから今日で丸一ヶ月。
季節は微妙に秋へと移り変わっているものの、まだまだ暑い。
この燦って国は、気候は日本と似ているようだ。
要するに、四季がある。
梅雨もあるらしいし、もうすぐしたら台風もやってくるそうだ。
そして、残暑が厳しい。
本当、勘弁してくれよこの蒸し暑さ。
思いながら、俺はまだまだギラギラしている太陽を目を細めつつ仰いだ。
俺は今、薪を割ったり皇宮の庭の掃き掃除をしたりと、まぁ有り体に言えば召し使いって奴をやってる。
皇宮にいるつもりなら働け、とあの美しい玲慶陛下、の弟である煌仙さんが言ったからだ。
ちなみに、陛下とは最初に会った時以来全然会えていない。
まあ召し使いと皇帝じゃ滅多に会うこともないんだろうが。
たまには会いてぇな……なんて思ったり。
「ちょっと」
声が聞こえた。
でも、多分呼ばれてるのは俺じゃないだろう。
そう思って気にせず掃除を実行していると、また呼ばれた。
「ちょっとそこの格好いいお兄さん!」
くるり。反射的に俺は振り返った。
現金だね俺も。