燦國恋歌

□第三章・恋
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ふぅ、と俺、市橋千早は息を吐き出した。

白い。白過ぎる。

燦は大陸の北東部にあるため冬の寒さはかなり厳しいが、首都である奏江は比較的南の方の、しかも海辺にあるおかげでまあまあ過ごしやすいーーという触込みなんだけど、まあ寒いことは寒い。

そう、光陰矢の如しというか、早いものでもうすっかり燦は真冬を迎えている。
俺がこっちへ来てからかれこれ半年だ。

いきなりこんな、誰も知人のいないところにトリップしたときは本当に心細くて死ぬかと思ったけど、素晴らしい順応性の持ち主である俺には、何かもう、今は逆に日本にいた頃のことが夢のように思える。

雑魚寝はもちろん、「いちはし」は言いにくいということで名字を音読みして「シキョウ」と呼ばれることも、ケータイとかテレビがない生活にももう慣れた。
まぁ……名前は多少呼びにくくてもちゃんと「ちはや」って呼んでもらっているが。

「なぁ」
俺は今、笙と二人で薪を運んでいる。
俺の斜め後ろにいて、さっきまで黙々と歩いていた笙が不意に声をかけてきたので、俺は彼を振り返った。
笙はやや険しい顔をしていた。

「……どうした?」

俺が尋ねると、笙は俺から僅かに目を逸らして言うか言うまいか逡巡する様子を見せた後、こう言った。

「あのさ……千早、女でもできた?」
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