燦國恋歌

□第四章・戦
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さて。
翌日。
そんなこんなで、俺たちは皇帝陛下の前での閲兵式を終え、行軍を開始したわけでございます。

あ、ちなみに。
閲兵式のとき、玲慶さまと何度か目が合ったような気がした。

皇帝である玲慶さまと、一介の小隊長である俺。
立ち位置だって離れてるし、そう度々目が合うこともないだろう。普通は。

だとしたら、俺は。
少し、自惚れてもいいのかなー……なんて。


……話を元に戻そう。

俺たちが行軍を開始したのが、ちょうど今から二週間前。
二週間かけて、ようやく俺たちは目的地にあと少しというところまでやってきた。

丹遼国の都の外れだというそこは、随分と寂しい場所だった。
瑾国が丹遼を滅ぼした戦の際に焼かれてしまったのだろう。

人の手で造られたものがもう殆ど無かった。
もちろん、人の姿も見当たらない。

地面の所々に残る白い雪、そして遠くに見える、生気を失った丹遼の王宮。

國破れて山河在り。

まさに、そんな感じだった。

俺は、燦に飛ばされたのもつい最近だし、ましてや丹遼なんかまったく馴染みのないところなのに。
それなのに、胸が締め付けられるような感じがして、鼻の奥がツンと痛くなった。


「皆の者、聞けぃ!」

全軍止まれの合図の後、少なくとも二万はいる大軍に響き渡るような大音声。
燦軍総司令官である大尉、蓮剛健の声だ。

俺は比較的蓮大尉に近い位置にいるため、いささか耳が痛い。

俺の同僚の蓮白狼の父親でもあるナイスミドル、蓮大尉は寂寞の風景に伴う辛気臭いこの空気を振り払うような剛胆な声で続ける。

「ここで我が軍は丹遼軍の生き残りと合流する!」

蓮大尉が言い終わるか早いか、王宮のある方角から軍勢が姿を現した。

「白狼! 千早!」

蓮大尉に名前を呼ばれて、俺と白狼は前へ進み出た。
つーか、そんなに声張らんでも聞こえるっつーの。

「白狼、千早。おまえらの隊は丹遼軍に混ざれ」

はぁ?! まじで?!
えー……、何なんだろう、この、修学旅行とかの部屋割りで、人数的な関係から一人だけ仲良しグループから弾かれたときみたいな気持ちは。

まあでも、これは修学旅行じゃない。

ここは軍だ。
上からの命令に逆らえるはずもない。

俺と白狼とその配下の兵は、大人しく丹遼軍の方へ馬首を向けた。
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