ナイルの雫

□第4章
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「聞いておりますわよ」

シェンナが言う。

「何を、でございましょう?」

やや怪訝な様子でアイリが聞いた。

「あら、何をはぐらかしてらっしゃるのでしょう?
 あなたとあなたの夫たる方のことですわ。
 とても仲睦まじくてらっしゃるのですってね」

形の良い、紅い唇にいたずらっぽい笑みを浮かべてシェンナがそう言う。

「仲睦まじい…ねぇ。まぁそうですが…」

アイリは、独り言のように口の中でごにょごにょとそう言った。

そして目の前の、ワインが注がれた杯を手に取り、ひとくち口に含んだ。

照れているともとれる娘のそんな様子に、シェンナの笑みは深まった。


そんな二人の様子を、アイリの女官であるメイは少し離れたところから見ていた。

うう、怖いよ…。
メイは心の中で呟いた。

確かに、表面上は仲の良い母娘に見えなくもない。
血が繋がっていないにも拘らず、二人は目元の辺りなど何処か顔立ちすら似通っている。
が、それは本当に表面だけなのだ。

本当は、この義理の親子の仲は険悪もいいところである。
どれくらい険悪かというと、義母が義娘の命を狙うほど。
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